依頼とウルフと僕。

 それは旅の途中、立ち寄った街でのことだ。

 最近街の周りをウルフがうろついてるようで、報奨金をかけて討伐者を募っていた。どうやら、そのウルフは珍しく群れを作っているようで、その群れのボスを倒した証拠として、牙を持ってきてほしいというものだ。


 旅の中、お金はこうした依頼をこなして貯めていくのだけど、まぁ簡単にお金が貯まるなら苦労はしない。


「報酬がいいな、これ」

「でも私たちでは倒せないと思います……」


 そういった依頼は、大抵街の掲示板に張られている。そこから自分たちに合ったものを選んで、紙を依頼主(大抵は町長や村長)に持っていて、依頼を受けることを言えば完了だ。

 後は討伐した証になるようなものを取ってきて、依頼主に渡して終わり。言えば簡単だけど、そう簡単にいくようなものばかりではない。当たり前だ。


 紙に書いてある金額を数えていた魔法使いは、にやりと笑って、金額を武闘家に示した。


「さっき見てた髪飾り、買えるぜ」


 そんな簡単に釣られるわけが……。


「頑張りましょう」

「え!?」


 その為に頑張るって何! しかもお前戦わないじゃん!

 勇者と僧侶が道具の買い出しに行ってる間に、なんでこいつらは勝手になんでも決めちゃうかなぁ!

 ここは僕が止めなきゃ! そんな強いウルフなんかに挑んで、勇者が食べられたら困るよ!


「だめ。あぶない、だめ!」

「フロイさん、心配してくれているのですね! でも大丈夫です、戦うのはクライフさんなので」


 あぁ、それならいっか。僕もこの脳筋には思うところがあったんだ。


「は? オレは非力な魔法使い様だぜ? そういう力仕事はあいつにやらせろっての」

「ヘリオスさんは貴方と違って繊細なんです!」

「オレが野蛮みたいな言い方すんな!」


 今さら非力とか何言ってんだろうと思うし、自分を野蛮だと思ってないみたいな言い方だし。やっぱりこいつは馬鹿だ。

 僕は武闘家の頭から魔法使いの肩にぴょんと移って、その柔らかくもないほっぺをグリグリした。


「まほうちゅかい、がんばれ!」


 お前がやらないと勇者が死んじゃうからな。


「ったく、非常食まで一緒になって何言ってんだか……。ん? 噂をすればなんとやらってか」


 魔法使いが手を上げた先に、買い出しから戻ってきた二人が見えた。紙袋を抱えた勇者が、魔法使いに向かって笑顔を見せる。


「やぁ、二人してどうしたんだい? 何かいい依頼でもあった?」

「そうそう! これやろーぜ!」


 張ってある紙をぶちりと千切って、魔法使いが満面の笑顔で勇者に渡す。片手で紙袋を抱え直した勇者はそれを受け取って、ふんふんと読んだ後「いいね」と笑った。

 僧侶は微動だにせず突っ立っている。ちなみに手ぶらだ。


「よっし、じゃ早速依頼人に話つけに行こうぜ!」


 勇者から紙を引ったくって走り始めた魔法使いと、なんだかんだ言いながらも武闘家も追いかける。ちなみに僕は勢いで転がり落ちた。

 絶対にあの二人、手伝うつもりなんてない。勇者にやらせるつもりなんだ。


「ゆうちゃ」

「ん?」

「あぶない」


 受けちゃ駄目だって言いたいのに、この馬鹿勇者は嬉しそうに僕を肩に乗せ直して、


「大丈夫だよ。僕は勇者だから」


 勇者は「行こうか」と僧侶に言い、紙袋を抱え直して歩き出した。勇者だから大丈夫という自信はどこにあるんだろう。勇者だから、僕はお前の命を狙っているのに。

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