第46話

恐らく、あの時にソレがお腹に宿ったこと。



それはあっという間に成長し、叔父に暴行された衝撃で生まれて来たこと。



ソレは血を吸って成長し、大人になってからは自分で狩りをしていたこと。



「あたしの叔父と叔母は、ソレが食べたの」



あたしの言葉に透は青ざめたが、頷いてくれた。



恐らく、薄々気が付いていたのだろう。



「それからソレの姿はあたしにも見えなくなった。今どこにいるのかもわからない」



そう言って口を閉じた。



黙っていたことはすべて話した。



心のつっかえが取れたけれど、透から嫌われたんじゃないかという不安は残った。



すると透が立ち上がり、あたしの横へ移動してきた。



なにを言われるのだろう。



別れを切り出されるのかもしれない。



だって、あたしが願ったせいで叔父と叔母は死んだのだから。



人殺し女となんて付き合っていられないだろう。



覚悟を決めて、透を見つめた。



すると次の瞬間、あたしは透に抱きしめられていたのだ。



今までにないくらいツヨク、きつく抱きしめられて呼吸も苦しいほどだ。



「透……?」



「ごめん。俺、友里の家の事情を知ってたのに、なにもしてやれなかった」



そう言う透の声は涙で濡れていて、あたしは驚いてしまった。



「どうして透が泣いてるの?」



「自分が情けないよ。もっと早く、こうなる前に助けることができたのに!」



「何言ってるの? そんなの無理だよ、だってあたしが……」



そこまで言って、口を閉じた。



だってあたしが、みんなに心配かけないよう、頼ってこなかったんだから。



それは透が頼りないからじゃなかった。



ただ、迷惑をかけたくなくて一人で抱え込んだ。



でも、きっと透はそう捕らえないだろう。



余計に自分を責めるに決まっていたから、全部を伝えることができなかった。



涙をぬぐった透があたしを真っ直ぐに見つめて来た。



「友里はなにも悪くない。絶対に」



そう言われると心の中がジワッと暖かくなる。



「ありがとう、透」



あたしはそう言い透の胸に自分の顔をうずめたのだった。

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