第45話

「元気ないな、どうした?」



そう声をかけられてハッと我に返った。



周囲を見回してみると、教室の中にはあたしと透の2人しか残っていなくて、みんな帰った後だった。



「ご、ごめん。すぐに準備するから」



そう言い、慌てて鞄を机に出した。



教科書を入れている間、後方から視線を感じて振り向く。



しかし、そこには誰もいない教室が広がるばかりで、誰の姿もなかった。



「大丈夫か? 視線を感じるのか?」



「うん……。でも、勘違いだから大丈夫」



あたしはそう言い、鞄を持って立ち上がった。



色々と考え事をしていたせいで、放課後になっていることにも気が付かないなんて、恥ずかしい。



「なぁ、お前本当に大丈夫か?」



教室を出る手前で、透に手を掴まれて立ち止まった。



振り返ると真剣な表情をした透が立っている。



あたしのことを、本気で心配してくれている。



「大丈夫だよ、別になんにもない……」



そう言いながらも、またどこからか視線を感じた。



誰かがあたしを見ている。



けれどその正体はわからない。



恐怖心から足がすくみ、言葉も出なくなってしまった。



「なにか隠してるんだろ?」



透がそう言って来たので、あたしは左右に首を振った。



「嘘つけ。真っ青な顔してるぞ」



透はそう言い、あたしの頬に手を当てた。



暖かくて落ち着く手の平の感触。



思わず、ソレのことが喉の奥まで出かかった。



言っちゃダメだ。



透に軽蔑されたくない。



そう思い、言葉を押し込めた。



「友里、もう1度聞くけど」



透があたしの手を握りしめてそう言った。



「悪魔山に行ってないよな?」



その質問を、あたしは否定することができなかったのだった。



もう黙っておくことはできなかった。



あたしは透の部屋に入り、テーブルを挟んで向かい合って座っていた。



いつもはテーブルの上に課題が広がっているけれど、今日はなにも置かれていない。



それだけで、少し気分が落ち着かなくなった。



「自分から行ったわけじゃないの……」



あたしは小さな声で説明をし始めた。



夕夏から写真を見せられたあの日、あたしは気が付けば山の麓に立っていた。



自分の意思であそこまで行ったわけじゃない。



信じてもらえるかどうかわからないけれど、今は真実を語るしかなかった。



「やっぱり、あの時か……」



透は下唇を噛みしめてつぶやいた。



「隠しててごめん」



「いや、友里と同じことになったら、俺だって隠してたと思う」



透はそう言い、あたしは話しの続きをした。

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