第33話

どうにか階段を下りきったその時だった。



階段の上部から何かが飛び降りてきた。



それは真っ黒な塊で……輝久の隣に着地すると、その血を吸い始めたのだ。



「あ……」



ソレが、あたしを見上げて瞬きをする。



口の周りには血がこびりついていた。



「ダメだよ。早く、先生を呼ばないといけないのに……」



そう思うのに、食事をしているソレを見ていると徐々にそんな気が失われて行く。



もうちょっとお腹が膨らんでからでも遅くない。



食事が終わってから、ちゃんと先生を呼べばきっと大丈夫。



そう思うと、もう一歩も動けなくなってしまった。



なによりもソレの食事が大切だった。



成長して、あたしの願いを叶えてくれるのだから。



「ゆっくり食べていいからね」



あたしは無意識のうちにソレに向けて、そう声をかけていたのだった。



☆☆☆


その後、輝久は病院に搬送され、無事に意識を取り戻していた。



あたしがソレに食事をさせていたことも、もちろん誰にもバレていない。



学校から帰る頃には鞄の中に入っていることが窮屈になっていて、ソレはあたしの隣を歩いていた。



人間でいう成人はいつ頃なんだろうか?



生まれるまでが一週間。



生まれてからも、もう一週間は経過している。



そう考えたあたしは、家に帰るとさっさと家事を終わらせて自室にこもった。



スマホでソレについて調べはじめる。



《ソレは10日前後で大人になる。



ソレは自分で食事を用意するようになる。



ソレは母親の願いをかなえてくれる》



「10日前後か……」



あたしはそう呟き、マットの上で眠っているソレを見つめた。



この子も、もう少しで大人になるということだ。



あたしはそっとソレの頭をなでた。



「名前、つけてあげてなくてごめんね」



そう言うと、ソレは寝返りをうち、再び寝息を立て始めたのだった。

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