第32話

事故現場などの人目があるところでの食事は、やっぱり避けた方がよさそうだ。



そう思ったあたしは、大きなビニール袋に学校で捨てられていたナプキンを詰め込ん

で行っていた。



臭いがキツイから教室の中にもって入るワケにはいかない。



どこか、隠して置ける場所はないだろうか。



そう考えながら校内を歩き回る。



「なぁ、お前さっきから何してんの?」



聞きなれない声が聞こえてきて立ち止まる。



振り向くと同じクラスの鈴村輝久(スズムラ テルヒサ)だった。



輝彦は怪訝そうな顔をしてあたしを見ている。



咄嗟に、手に持っていた袋を背中へと隠した。



「別に? なんで?」



「さっきからトイレに出たり入ったりしてるだろ」



そう言われて、表情がひきつった。



見られていたみたいだ。



けれどナプキンを回収していたなんて言えない。



掃除時間はまだ先だし。



「お腹の調子が悪いんだよ」



「それにしては色んなトイレに入ってるだろ」



そう言って一歩前へ踏み出してくる輝彦。



やばい、どう言い逃れをしようか……。



そう考えて後退した、その時だった。



世界がグラリと揺れていた。



それと同時に目の前の輝久が慌てた表情であたしに手を伸ばす。



あ、そういえば後ろは階段だった……。



そう気が付いた瞬間、あたしは輝久に腕を掴まれて引き寄せられていた。



寸前の所で落ちずに済んだようだ。



ホッとしたのもつかの間。



あたしを助けた反動で輝久の体が階段の空中へと投げ出されたのだ。



「輝久!?」



名前を呼ぶのが精いっぱいだった。



あたしは腕を引かれた衝撃で廊下に倒れ込んでいた。



落ちて行く輝久。



それはすべてスローモーションのようだったけれど、助ける時間なんてなくて……。



輝久はそのまま階段に何度も体中をぶつけて落下していく。



輝久の体は魂のない人形のようにバウンドを繰り返した。



「輝久!」



下まで落ちてから、あたしはようやく立ち上がることができていた。



だけど、体中が震えてうまく歩く事ができない。



階段の手すりを使いながら一段一段ゆっくりと下りて行く。



輝久は目を閉じてピクリとも身動きをしない。



その頭部からジワリと血が流れ出していた。



「ひっ」



打ち所が悪かったようだ。



あたしは青ざめてその場に立ち止まってしまった。



早く、誰かに知らせないと。



先生に言わないと!



そう思うのに、体が震えてうまく動けなかった。

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