第31話

「そう言えば、名前を付けるのを忘れてた」



歩きながら、ふとソレに名前がないことに気が付いた。



あの日突然腹部から現れて混乱していたし、ソレに与える食料のことで頭がいっぱいになってしまっていた。



「って言っても、性別もわかんないしなぁ」



そう言ってソレの顔を見つめる。



全体的に毛の量が増えて来ていて、牙も立派になってきている。



見た目は男っぽい。



1人で悩みながら歩いていると、後ろから透が声をかけて来た。



「おはよう友里。昨日バイトだったんだろ? どうだった?」



「おはよう。バイトは楽しかったよ」



この子へのご飯もちゃんと確保できたし、ラッキーな日だったことを思い出す。



「そっか。昨日はあの辺で事故があったって聞いたけど」



「うん。トラックとバイクの事故だったみたい」



その場にいたとは、なんとなく言えなかった。



無駄に心配させるのも気がひける。



「なんかさ、その事故が変だったって、友達から聞いた」



「変だった?」



あたしは首を傾げて透を見た。



「うん。友達はその事故現場にいたんだけど、バイクの運転手は破損したバイクの部品がお腹に突き刺さってたんだって。それなのに、どこにも血が流れてなかったって」



その言葉にドキッとしてしまう。



あの事故の血はソレがすべて飲み干してしまったからだ。



「へぇ? 友達の勘違いじゃないの?」



あたしはぎこちなくならないよう、気を付けながらそう言った。



「そうなのかな? 俺らの間じゃ吸血鬼事件として有名になったけど」



まさしく、そのネーミングの通りだった。



「吸血鬼なんているわけないじゃん」



あたしはそう言い、笑ったのだった。

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