第30話
「今日は初めての狩り、よく頑張ったね」
帰り道、歩きながらそう言うと、トートバッグの中からソレが嬉し気に顔を覗かせた。
子猫を2匹食べたことで、また大きくなっているのがわかった。
このままじゃ学校の鞄には入れなくなってしまうかもしれない。
でも、他の人からは姿が見えないのだから、支障はなかった。
「今度はもっと大物を狩ってみようね。きっと上手く行くから」
こっそり会話しつつ歩いていると、大きな横断歩道に差し掛かった。
バイクや車が次々と行きかっている。
あたしはソレが突然トートバッグの中から出てこないよう、バッグを体へと密着させた。
バッグの中からソレの温もりが感じられる。
「ここの信号機って長いよねぇ」
そう呟いた時だった。
直進しようとしていたバイクが、左折しようとしていたトラックにぶつかるのが見えた。
衝突音が響き渡り、唖然としてその光景を見つめる。
バイクは随分とスピードを出していたようで、ぶつかった瞬間跳ね飛ばされていた。
バイクは大きく空中へ舞い上がり、乗っていた人はそのままコンクリートの地面に打ちつけられた。
バイクはそのすぐ横に落下して、大きな音を立てて大破する。
咄嗟に後ずさりをして、その破片から逃げた。
バラバラになったバイクの破片が倒れた人の上に降り注ぐ。
その欠片の1つが鋭利な刃物のようにとがっていた。
「危ない!」
誰かが叫んだけれど、気絶している人間が動けるワケがなかった。
助けに行く暇もない。
尖った破片は運転手の腹部へと突き刺さっていたのだ。
唖然としている時間はそんなに長くは続かなかった。
トートバッグの中のソレが激しく身動きしはじめたのだ。
ギャーギャーと声を上げている。
「なに? どうしたの?」
そう言ってトートバッグの中をのぞき込もうとすると、すぐに外へ出てきてしまった。
止める暇もなく、バイクの運転手へと駆け寄っていくソレ。
血の匂いをかぎ取ったのだ。
コンクリートに広がる血をじゅるじゅると音を立てて飲んでいく。
こんなに人目があるのに、消えていく血に気が付く野次馬たちは誰もいない。
みんな救急車や警察を呼ぶのに大忙しだ。
「今日の晩ご飯はこれで大丈夫かな」
あたしは1人、そう呟いたのだった。
☆☆☆
翌日は学校のある日だった。
いつも通り早起きをして朝食を作り、その時に鶏肉を冷蔵庫から拝借してソレに食べさせた。
血をすべて抜かれた肉は干物のようにシワシワで硬くなるから、もう食卓には出す事はできない。
次々なくなっていく食材だけど、2人は普段料理をしないから今のところ怪しまれる心配はなかった。
「行ってきます」
あたしはそう言い、ソレと一緒に外へ出た。
今日はとてもいい天気で太陽がまぶしいくらいだ。
鞄の中からソレが顔を覗かせて、行きかう人々を観察している。
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