第25話
随分と体調が良くなったあたしは、一旦教室へと戻ってきていた。
まだ授業を受けられるほどの体調ではないけれど、夕夏に聞きたいことがあったのだ。
「夕夏、ちょっといい?」
友達と談笑していた夕夏に話しかけ、廊下へと出た。
「友里、歩き回って大丈夫なの?」
夕夏も事情を知っているのだろう、あたしのことを心配してくれている。
「大丈夫。あのさ、前に妊娠した子がいるって言ってたじゃん?」
「あぁ、うん。隣の県の子のこと?」
「うん。あれから連絡とれたのかなって思って」
あの子とは連絡が取れなくなったと聞いていた。
すると夕夏は深刻そうな表情で左右に首をふった。
「まだ連絡が取れないし、家にも戻ってないみたい」
「え?」
あたしは驚いて聞き返した。
「連絡が取れないだけじゃなかったの?」
「あの後友達の両親から連絡がきて、『うちの子の居場所を知らないか』って聞かれた」
「そうだったんだ……」
「学校にも行ってないみたいだし、それに……」
そこまで言って口ごもる夕夏。
言っていいのかどうか、悩んでいる事があるみたいだ。
どんな些細な情報でも欲しかった。
あたしと同じように化け物を産み落としたのだとたら、どうすればいいのか知りたい。
「連絡が付かなくなる前に、あの子の友達が3人も死んでるの」
「死んでる?」
「うん。みんな原因不明で、だけどものすごく苦しんで死んだんだって」
「それってまさか……」
そう言い、口を閉じた。
友達3人を殺してくださいと、その子が願ったんじゃないの?
そう言いたかったけれど、言えなかった。
成長した赤子が母親の願いを聞き届けたのだ。
だけど、その後母親である女の子が行方不明になっていることは気がかりだった。
「友達がいなくなる前に、何か言ってなかった?」
「なにかって言われても……」
そう言って少し考えたのち、なにかを思い出したように夕夏は顔を上げた。
「そう言えば、すごく喜んでた」
「喜ぶ?」
「うん。『これからはもっと楽しくなる』って」
「それ、いつ頃?」
「友達が3人亡くなった頃だよ。落ち込んでると思って連絡したんだけど、思ったより元気だったからよく覚えてる」
「そうなんだ……」
やっぱり、女の子の願いは3人の友達を殺すことだったのだろう。
「それからは?」
「あまり連絡とってなかったからわからない。そんなことを聞くなんて、どうしたの?」
「ううん、なんでもない。ありがとう」
あたしは夕夏へ礼を言い、トイレへ向かった。
恐らく、夕夏の友達は願いを叶えてもらっている。
その後どうなったのかはわからないけれど……。
「できれば食事方法とかが知りたかったんだけどな」
トイレの中で1人呟いた。
母親以外には見えないみたいだし、化け物を育てる話なんてさすがにできなかったのだろう。
「どうしよう。あの子のご飯がないと、あたしの願いも叶わないよね……」
かと言って、血液を調達することなんてできない。
病院へ忍び込んで輸血バックを盗んでくる?
そんなことできるわけないし……。
逡巡していると、トイレの汚物入れが視界に入った。
「あ……」
小さく呟き、蓋を開けてみる。
そこには使いさしのナプキンが入れられていた。
「ナプキンか……」
けれど、これを素手で触る事は気が引けた。
さっきのティッシュとはわけが違う。
「あ、そっか。あの子をここへ連れてくればいいんだ」
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