第24話

☆☆☆


それから少し眠って目が覚めた時、保健室の中に1人の生徒がいることに気が付いた。



「体育の授業で怪我しちゃって」



「随分血が出てるわね。すぐ手当てしなきゃ」



カテーンの向こうからそんな声が聞こえてきて、あたしは体を起こした。



スマホで時間を確認すると、1時間目が終わった頃だった。



まだ少しフラフラするけれど、朝よりは体調も戻ってきているのがわかった



鞄へ視線を向けると、いつの間にかソレがチャックを開けて顔を出している。



こちらを見て微かに笑っているように見えた。



「お前は賢いね。自分でチャックを開けられるんだ」



内側から開けるなんて、簡単じゃないだろうに。



そう言ってソレの頭を撫でた。



手にネットリとした液体が絡み付くけれど、気にならない。



「大丈夫。ちゃんと育ててあげるから」



小声で言っていたつもりだけれど、先生に聞こえてしまっていたようだ。



「深澤さん、目が覚めた?」



そんな声と同時にカーテンを開けられる。



「まだあまり顔色がよくないわね。これ、鉄分補給のサプリだけど、飲む?」



先生が小瓶と水の入ったコップを用意して、持って来てくれた。



鞄の中からソレが顔をのぞかせているが、先生は全く気が付かない。



「ありがとうございます」



サプリとコップと受け取り、礼を言う。



「今日は1日ここでゆっくりしてなさい」



そう言って、来ていた生徒と2人で保健室を出て行く音が聞こえて来た。



「本当に見えないんだね」



ソレへ向けて声をかける。



ソレは楽し気に笑った。



「ご飯の準備をしなきゃね」



体調が悪くても、この子の世話はしなきゃいけない。



あたしがいなきゃ生きて行けないんだから。



そう思うと、自然と元気が出て来る。



誰かに頼られているということは、自分の生きる活力になるみたいだ。



ベッドから抜け出し、先生の机の横に置かれているゴミ箱へと向かった。



蓋つきのゴミ箱の中を確認してみると、さっきの生徒が使ったと思われるティッシュが入れられていた。



しっかりと血がついている。



あたしはそれを素手でつかみ、鞄の中のソレへ差し出してみた。



するとソレは長い指を使って器用にティッシュを持ち、血の付いた箇所に口を当てた。



みるみるうちに、ティッシュについた血が吸い取られて行く。



「すごい。そんな風にして食事をするんだね」



あたしはそう言ってソレの頭を撫でた。



1日どのくらいの食事をするんだろうか?



朝マットについた血を吸ったようだけど、今もこうして普通に食事をしている。



食事量は多いのかもしれない。



そうなると問題はどうやって血液を調達してくるかだった。



保健室の中を見回してみても、生徒の血がついたものなんてそう置いてなさそうだ。



視線を戻すと、赤かったティッシュはあっという間に真っ白になってしまっている。



「美味しかった?」



そう聞くとソレはまた眠たそうに目を閉じたのだった。

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