第23話
その様子が愛らしくてほほ笑んでしまう。
ソレがなんであれ、自分のお腹から生まれた子供であることに間違いはなかった。
生まれてくるまでは恐怖心しかなかったが、こうして対面してみると守るべきものに見えてきた。
これが母性本能なのかもしれない。
「口の周りになにかついてる」
そう言い、ソレの口へと手を伸ばす。
ネットリとした皮膚に赤いなにかがくっついている。
ぬぐい取ってみてもなにかわからず、あたしは鼻に近づけてみた。
鉄の匂いだ。
「もしかして血?」
そう聞くと、ソレは頷いた。
マットに点々と血がついていたことを思い出す。
あれはあたしの血だったはずだ。
だとしたら……。
「もしかして、あなたは血を吸うの?」
そう聞くと、ソレはゆっくりと頷いたのだ。
「あなたがマットの血を吸い取ったから、血痕が点々と残ってたってことね」
あたしは納得してそう言った。
下着は真っ赤に染まっていたのに、マットは血のついていない箇所も多かった。
ソレが全部食べたみたいだ。
「今、お腹は一杯?」
そう聞くと、ソレはまた頷いた。
眠たそうに目を細めている。
「ちょっと眠りなよ」
あたしはそう言い、鞄のチャックを閉めたのだった。
☆☆☆
保健室のベッドに横になったまま、あたしはこっそりスマホを取り出していた。
もう少し悪魔山について調べ始める。
今度は山に関してではなく、悪魔に関する記事を探して行った。
『ソレは山で願った一週間後に産れる。
ソレは血を吸って成長する
ソレは母親にしか見えない
ソレは成長すると願いをかなえてくれる』
沢山のサイトでそれらしい記事を集めてみると、そんな感じで描かれていた。
「一週間って書いてあるけど、あたしの場合はお腹を蹴られたから早く出てきたのかな」
そう呟いてサイトを閉じた。
予想よりも早く出てくることになったソレは、人間でいう未熟児かもしれない。
沢山食べさせて、大切に育てないと……。
そんな風に考えて、ハッとした。
あたしはもう、ソレを育てる気でいるのだ。
自分の考え方に驚きながらも、それは当然だと考える自分もいた。
だって、あの子はあたしが産んだのだ。
あたしが責任をもって育てないと、誰が育てるの?
ソレは、母親にしか見えないと書いてあった。
つまり、あたしにしか見えないのだ。
そう思うと、もうほっとけなかった。
両親の愛情を途中から知らずに育ったことが、余計にそう思わせた。
「大丈夫だよ。あなたを辛い目には合わせないから」
あたしは鞄へ向けてそう言ったのだった。
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