第20話

夢を見ていた。



あたしのお腹の中から、黒い化け物が這い出して来る夢だった。



化け物は痛みに呻き、泣いていて、それでも必死に這い出してくる。



もう少しだよ。



頑張って。



ごめんね、痛かったね。



あたしは化け物に向けてそんな言葉を投げかけていた。



どうしてだろう。



得体の知れない化け物なんて怖いだけなのに、ソレにはどこか愛おしさを感じていた。



「オギャー!オギャー!オギャー!」



化け物は3度泣き、そしてあたしを見てニタリと笑った。



「お母ちゃん」



ハッとして目を覚ました。



お腹が痛くて顔をしかめる。



思っていたよりもひどく蹴られたらしい。



目だけ動かして周囲を確認してみると、ここがいつもの自分の部屋であることに気が付いた。



ホッと息を吐きだし、それから笑みがこぼれた。



暴力を受けたのは初めての経験だった。



しかも、気絶するほど強く蹴られたのだ。



それでも2人はあたしを病院へ連れていかず、ここに寝かせただけだった。



そう考えると、なんだか笑えてきてしまったのだ。



ここで生きていくためには、もっともっと強くならないといけない。



もう頑張るのはやめて、誰かに助けを求めて2人を捕まえてもらうのもいい。



あたしがいつまでも従順な犬でいると思ったら、大間違いだ。



そう思い、鼻をすすり上げる。



気が付かない内に涙が出てきていたみたいだ。



あたしは歯を食いしばって涙をぬぐった。



あんな奴らのために流す涙なんてない。



なにをされたって、あいつらのせいであたしが壊れてしまうことはない!!



自分に強くそう言い聞かせた時、布団の中で何かが蠢いていることに気が付いた。



「なに……?」



あたしの足辺りに、ぬるりとして暖かな物がある。



両手で布団を押し上げて布団の中を覗き込む。



暗闇に溶け込むように、何かが動いているのが見えた。



全身がスッと寒くなって行く。



体温が一気に低下していくのを感じた。



見ない方がいい。



そう思うのに、あたしの目は足元にいるソレに釘付けになっていた。



蠢く黒いソレから視線を離すことができない。



ゴクリと唾を飲み込んだその時……目があった。



ソレが顔を上げ、こちらを見たのだ。



白い眼の中に、赤い瞳孔がランランと輝いている。



ソレは大きな口を開け、白い牙を覗かせて言った。



「お母ちゃん」

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