第19話

あたしはゴクリと唾を飲み込み、広間に背を向けて歩き出した。



誰かに見られているという感覚が、体中に絡み付く。



その正体を探らないといけないのに、恐怖に支配されてしまった。



物音1つ聞こえない山の中なんておかしい。



どこかに生き物がいるはずなのに、その姿もどこにもなかった。



まるでみんなが静かにあたしのことを見ているような、得体の知れない気持ち悪さが全身を覆い尽くして行く。



早足に下山し、フェンスの前で立ちどまる。



その頃にはもう太陽は傾きかけていた。



息を切らしながらどうにかフェンスを乗り越えて、ようやく息を吐きだした。



それでも寒気は止まらない。



あたしは投げ出していた鞄をひっつかむと、逃げるようにその場を後にしたのだった。


☆☆☆


そのまま家に戻ると、叔母と叔父が仁王立ちをして玄関に立っていた。



疲れ果てていたあたしはぼんやりと2人の顔を見つめる。



まるで鬼のような形相であたしを睨み付けている2人。



「今日はどこへ行っていた」



そう聞いて来たのは叔父だった。



「あの……」



正直に話そうとしたのだが、疲労と恐怖で言葉が詰まってしまった。



とにかく座りたい。



そう思う。



「ちゃんと説明しなさい!」



叔母がキンキンと荒い声を吐き出すので、頭が痛くなった。



「病院へ……行ってました」



あたしはようやくそう答えた。



「嘘をつくな! 学校をサボったんだろう!!」



「嘘じゃないです。学校に行かなかったのは体調が悪かったからで……」



説明しているそばらか、叔父の手が飛んで来てあたしの頬に衝撃が走った。



一瞬なにが起こっているのか理解できなかった。



気が付けば玄関先で横倒しに倒れていた。



右頬がジンジンと熱を持ち、痛みを感じる。



殴られたのだ。



そう理解すると同時に2発目が飛んできた。



今度は足で、腹部を蹴られたようだ。



叔父の足が腹部を直撃した瞬間、頭の中は真っ白になっていた。



『妊娠しています』



『堕胎できる期間は過ぎています』



医師の言葉が何度も頭の中でリピート再生された。



「い……たい……」



叔父と叔母は何か罵倒をしているが、そんな声全然聞こえてこなかった。



お腹を抱えてうずくまる事しかできない。



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!



お腹の中のソレが悲鳴を上げている。



あたしも同じように悲鳴をあげた。



叔父と叔母の驚いた顔が見える。



世界がグルグルと回りはじめる。



やがて意識は遠くなり、あたしは気絶してしまったのだった。

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