第18話
家から悪魔山へは徒歩で1時間かかることがわかった。
あの日、無意識の内にここまで歩いたなんて、やっぱりおかしな出来事だった。
「やっと到着した……」
お腹の重たさもあり、到着したときには息が切れていた。
何度も休憩を挟んで来たけれど、背中にはじっとりと汗を書いている。
あたしはフェンス越しに悪魔山を見上げた。
こんな山に登っただなんて信じれない。
このフェンスだって超えることができるかどうか……。
そう思いながらも、あたしはフェンスに両手をかけていた。
鞄は地面に投げ捨て、ポケットにスマホだけ残して登りはじめる。
妊婦がこんなことをするなんてと怒られそうだけど、そんなこと気にしている場合じゃなかった。
そもそも、あたしのお腹の中にいるのがなんなのか、わからないのだから。
それを知るためにも、ここを上る必要があった。
以前はなんでもなく登れたフェンスなのに、今は恐怖で筋肉が強張っていた。
手を離せば、足が滑れば落下してしまうかもしれないのだ。
怖くないワケがない。
フェンスは3メートルほどの高さがあり、一番上から落下したら、下手をすれば命がないかもしれないのだ。
どうにか上り終えて、今度は下って行く。
登りよりも幾分楽な気持ちだったけれど、それでも随分時間がかかってしまった。
ようやくフェンスを乗り越えて、今度は細い山道を歩いていく。
あの祠はどのくらいの位置にあっただろうか。
道が途絶えて、それでもまだ真っ直ぐ進んで行った場所にあったはずだ。
記憶を辿りながらひたすら歩き続ける。
時々大きな岩に腰をかけて休憩するだけど、気持ちが焦っているため長く休憩することもできなかった。
歩くたびにお腹が重たくなっているような気がする。
お腹の中で何かが急速に成長していくのを感じる。
それが恐怖となり、あたしの歩調を速めて行った。
そしてようやく目の前が開けた。
あの祠があった広間だ!
そう思い、笑顔になる。
しかし次の瞬間、その笑顔は見る見る消えて行っていた。
「なんで!?」
ここは確かに祠のあった広間だった。
木々の間にポッカリと開いた空間。
だけど、そこに祠はなかったのだ。
一面雑草に覆われている。
「なんでないの!?」
空中へ向けて叫びながら、祠があった場所へと足を進める。
その場所も雑草が生い茂っていて、建物があったような形跡はなかった。
あれはすべて夢だったとでも言うんだろうか?
それなら、あたしのお腹にいるのはなに?
絶望感が湧き上がってきた時、足で何かを踏んでしまって立ち止まった。
チャリッと微かな音がして下を向くと、そこには錆びた鎖が落ちていたのだ。
「あ……」
あの時見た鎖と同じ物だ。
この鎖の中央に祠があったのに……。
あたしは視線を広間へと戻す。
何度見ても、そこにはなにもない空間が広がるばかりだった。
でも、確かに感じていた。
あの時声を聞いたのと同じように、強い視線を感じる。
振り向いても、周囲を確認しても誰もいないけれど、あたしは確かに見られている。
「いるんでしょ!?」
誰もいない空間へ向けてそう叫んだ。
風がやみ、鳥や小動物の声も聞こえない。
異様なまでの静けさが周囲を包み込んでいた。
自分の呼吸音だけがやけに大きく聞こえて来る。
「あたしのことを見てるんでしょ!?」
もう1度叫んだ。
しかし返事はない。
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