第13話
友達と一緒にいる放課後はとても楽しいものだった。
何度も頭の中で想像し、夢に見ていたよりも、ずっとずっと楽しい時間だった。
「このズボン、友里に似合いそう!」
2人で行ったショップで梓がそう言い、紺色のクロップドパンツを手に取った。
部屋着にもなりそうなゆるいタイプのものだ。
「わぁ~可愛い!」
テレビなど芸能人が履いているのを見たことがある。
あたしが興味を持っていると
「試着してみなよ」
と、梓が言って来た。
「でも……」
買う予定があるわけじゃないから、試着するのはなんだか気が引けた。
「いいからいいから、早く」
躊躇するあたしの背中を押して、試着室まで移動する梓。
あたしは渋々試着室に入った。
制服姿でこんなところに来て、服を試着しているなんて夢みたいだ。
本当なら今頃宿題を終わらせて洗濯物を取り込んでいる頃だろう。
そんなことを思いながらスカートを脱ぎ、ズボンを穿いてみた。
「あれ?」
しかし、途中でひっかかって上まで上がらないのだ。
ズボンのウエスト部分はゴムになっていて伸びるのに、太ももから入らない。
「友里、はけた?」
試着室の外からそんな声が聞こえてきてあたしは「ううん。やっぱりやめとく」と、答えてズボンを脱いだ。
サイズを確認せずに持って入ったし、Sサイズだったのかな。
そう思い、ウエストの内側のサイズを確認する。
そこにはMという表記があった。
「嘘」
思わず、小さな声で呟いた。
Mサイズは普通に着れるはずだ。
そう思い、もう1度はいてみる。
しかし、やはりズボンは途中で止まってしまった。
外立盛りだけど、いつの間に太ったんだろう。
ショックを受けながらも着替えをすませ、あたしは試着室を出たのだった。
☆☆☆
楽しい時間は長くは続かない。
学校が終わって2時間ほど経過したとき、叔母さんから電話が入ったのだ。
スマホ画面を見た瞬間、気分が暗く沈んで行ってしまう。
でも、出なきゃ。
昨日からのことを思い出すと、もう無視はできなかった。
梓に断りを入れて電話に出ると、一番最初に罵声が聞こえて来た。
「今どこにいるの! どうして家の事をなにもしてないの!!」
その言葉にうんざりしてため息を吐き出した。
あたしはあんたたちの奴隷じゃない!!
そう怒鳴り返す事ができれないいのに。
「ごめんなさい。学校が長引いてて」
自分の言葉に自分が一番驚いた。
こんなに、なんでもないように嘘がつけるなんて思っていなかった。
「さっさと帰って家のことをしなさい!」
叔母さんはそう怒鳴ると、一方的に電話は切られた。
あたしはスマホを見つめてしばらく棒立ちになってしまった。
「友里、誰からの電話? 大丈夫?」
梓にそう声をかけられて、ハッと我に返った。
「大丈夫。家に戻らなきゃ」
「そっか……」
梓はまだ心配そうな顔を向けているけれど、あたしが棒立ちになっていたのは怒鳴られたからじゃない。
反発をあらわにした自分自身に驚いていたからだ。
あたしはぼんやりとした気分のまま、家へと歩き出したのだった。
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