第12話

あたしは優しい口調でそう言った。



あたしは、まだ梓は夕夏には両親が他界していることを伝えていない。



いつか言うかもしれないが、無理に話す必要もないと思っていた。



「そうなのかな」



夕夏は寂しそうな表情を浮かべている。



「妊娠なんてデリケートな話なんだから、もうちょっと待ってあげたら?」



梓にそう言われ、夕夏は納得したように頷いたのだった。


☆☆☆


学校から帰る頃、あたしの体調はスッカリ元通りになっていた。



「友里、今日買い物に付き合ってほしいんだけど」



教室から出ようとしていた時、梓にそう声をかけられてあたしは立ち止まった。



昨日は家に戻っていないし、今日は早く帰って家のことをしないといけない。



頭では理解しているけれど、足が止まったまま動かなかった。



山の麓で大声で泣いたことを思い出す。



あたしの本心はあの時叫んだことで間違いなかった。



「……行く」



2人への反抗心からか、あたしはそう言っていた。



今までずっと、やりたいことを我慢してきた。



友達に誘われても断ってきた。



たった1回、自分のやりたいことを尊重するだけだ。



「え、本当に?」



梓はあたしの言葉が意外だったのだろう。



驚きながらも、嬉しそうだ。



「うん。行く」



1度行くと言ってしまえばもう心は固まった。



あたしは梓へと駆け寄った。



「あ、でもあたしお金……」



買い物に行くにしても、自由に使えるお金は少ない。



お小遣いはもちろん貰ってないし、お年玉の貯金はすべて叔母が管理している。



持っているのは夏休み中にしたバイト代の残りだけなのだ。



「大丈夫だよ、わかってるから」



梓はそう言い、あたしの手を握りしめて来た。



「え?」



それってどういう意味だろう?



「ごめん。黙ってたけど、透から教えてもらったの」



そう言われて一瞬頭の中は真っ白になった。



透が梓になにを教えたのか、聞かなくても理解できた。



「あたし、ずっと待ってたんだよ。友里がもっと自由になれるのを」



「そんな……全部、知ってたの?」



その質問に梓は頷いた。



「友里は長い間縛られてきたから、自分から行動を起こせなくなってたんだよね。それでも絶対に、その鎖を自分から引きちぎる日が来ると思ってた」



梓や夕夏は、あたしが誘いに乗らないことを知っていて何度も声をかけてくれていた。



2人とも、あたしのことを思っていてくれたのだ。



その事実に胸が熱くなるのを感じた。



1人で耐えなければと思っていたけれど、あたしのいる世界はもっと暖かいのかもしれない。



「お金のことは気にしないで。今日はあたしが奢ってあげる」



梓はそう言い、あたしの腕に自分の腕を絡めて歩き出したのだった。

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