第4話

早く寝かせるために妖怪や幽霊が来ると脅したり、良い子にしないと悪い物が来ると脅したり。



躾のために大人たちがよく考える事だった。



「でもさぁ、なんか気になるんだよね……」



あたしはそう言って机に視線を落とした。



あの写真を見た時に見えたものはなんだったんだろう?



昨日クラスラインを見た時も『お母ちゃん』という声が聞こえて来たし……。



「もしかして興味あるの?」



そう聞かれてあたしは曖昧に頷いた。



興味があるというか、昨日から妙な胸騒ぎを感じている。



本当にただの噂なのか、子供を近づけないための嘘なのか知りたいと思っている。



「だめだよ。本当に落石があったら危ないんだから」



「行かないよ。でもちょっと調べて見てもいいかなって思ってる」



あたしはそう言い、ポケットからスマホを取り出した。



去年、初めてのアルバイトで手に入れたスマホ。



それまでは欲しいものがあっても我慢してきた。



高校生になってあたしはようやく自由に使えるお小遣いを手にしたのだ。



このスマホは思入れ深いものだった。



そのスマホを使って悪魔山を検索してみる。



この地域限定の呼び名だと思っていたけれど、すぐに何件かヒットした。



その中には見覚えのある山も入っている。



「すごいね『悪魔山』でちゃんと出て来るんだ」



横から画面をのぞき込み、梓がそう言って来た。



「本当の名称ってなんなんだろうね?」



悪魔山の存在はずっと昔から知っていたし、慣れ親しんだ山だった。



ここからはちょっと遠いから直接行ったことはないけれど、別になんの変哲もない山だと思っていた。



見慣れた山の写真をタップしてみると、その写真を投稿しているサイトが出て来た。



山に関するブログを書いている男性のサイトみたいだ。



『○○県にある通称悪魔山。



山の周囲は高いフェンスに囲まれていて、人の侵入を拒んでいるように見える』



そんな文面と一緒に高いフェンスの写真も載せられていた。



「これって山から動物が下りてこないように作られたフェンスだよね? この辺って畑や田んぼが多かった気がする」



梓がチョコレートクッキーを頬張りながら言う。



「そうなんだ? 近くまで行ったことがないから知らない」



そう言って画面へ視線を戻した時、画面一杯の黒い顔が見えてスマホを床に落としていた。



心臓は早鐘を打ち、呼吸が苦しい。



一瞬にして全身に汗をかき、体温が上昇する。



「どうしたの友里、手が滑った?」



梓があたしのスマホを拾い上げながらそう聞いて来た。



あたしは返事ができなかった。



やっぱりあたしは昨日からどこかおかしい。



ドクドクと鳴り続ける心臓に深呼吸をし、恐る恐るスマホの画面を確認する。



そこにはフェンスの写真が表示されているだけで、顔なんてどこにも映っていなかったのだった。

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