第3話

「そんなのただ妊娠しただけでしょ?」



横からそう言ったのは梓だった。



好奇心をむき出しにしている夕夏に呆れ顔だ。



「そう思うでしょ? だけどこの子彼氏がいないの!」



夕夏の言葉に梓はため息を吐き出している。



彼氏がいなくなって妊娠するときもある。



そう言いたいのだろう。



けれどあたしは画面にすいよせられていた。



女の子のお腹がどんどん大きく膨らんでいくのが見えた。



ほんの少しの膨らみが1秒ごとに大きくなっていくのだ。



そのお腹がパンパンに膨れ上がった次の瞬間皮膚がはじけ飛び、中から小さな手が現れた。



人間のものとは思えないほど黒く、細長い指先が腹部を押し広げている。



その奥から血と胎盤が絡まった丸い頭部が現れた。



ドロリとした液体が女の子の足元に広がって行く。



頭部も細長く、映画のエイリアンを彷彿させる。



ソレは腹部から完全に姿を見せる前に顔を持ち上げた。



首の座っていない赤ん坊のようにぎこちなく、ユラユラと揺れながらこちらへ視線を向け……目が、あった。



「いやああああああああ!!」



自分の悲鳴が聞こえた瞬間、画面の写真は元に戻っていた。



「友里、どうした?」



透が驚いてそう聞いてくる。



あたしは夕夏からスマホを奪い取り、写真を見つめた。



さっきのように化け物が腹部から出て来るようなことはなかった。



あたしの気のせい……?



まだ心臓はバクバク言っているし、夢だとも思えなかった。



だけど、普段から疲れていることは事実だ。



みんなから聞いた話で、幻想を見たのかもしれない。



「……ごめん、なんでもない」



あたしはそう答えて、ひきつった笑顔を浮かべたのだった。


☆☆☆


それから先は特に何事もなく時間が過ぎて行った。



やっぱりあれはあたしの勘違いだったのだろう。



「友里、今日もお弁当?」



昼休憩になり、梓がそう声をかけて来た。



「うん。梓は?」



そう聞くと、梓は手に持っていたコンビニの袋をあたしの机の上に置いた。



今日は買って来たのか。



そう思っていると、「じゃーん!」と効果音を付けて梓が袋を開けた。



中に入っていたのはチョコレートのお菓子の数々。



「お菓子ばっかりじゃん」



呆れてそう言うと「今日はこれがお昼ごはん」と、自信満々に言って来た。



好きなものを好きなだけ食べて、お腹いっぱいになるつもりらしい。



「夕夏は?」



教室内を見回してみても夕夏の姿がなくて、梓へそう聞いた。



「隣のクラスで食べるって。どうせあの写真をみんなに見せたいんでしょ」



梓はそう言い、さっそくチョコレートを食べ始めた。



幸せそうな顔をしている。



「悪魔山なんて、本当なのかな」



あたしはお弁当に箸を伸ばしながら、そう呟いた。



「嘘に決まってんじゃん。落石とかで危ないから子供が近づかないように、噂を流したんじゃない?」



確かに、そういうものは多いみたいだ。

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