第2話
あたしの朝は早い。
洗濯物をして朝食を作らなければならないから、遅くても6時には起きている。
最初に洗濯機を回し、朝食を作り、叔父と叔母を起こし、2人が朝食を食べている間に、自分の身支度を整えた。
2人が食べ終えた頃に食事をし、3人分の洗い物をする。
朝食の残りで自分のお弁当を作り、洗濯物を干して、ようやく出かける事ができるのだ。
こんな生活を、もう何年も続けている。
外の空気を吸い込むと、ようやく自分らしさを取り戻せるような気がする。
自分らしさなんて、もう随分前に忘れてしまったけれど。
時々、どうして叔父と叔母があたしのことを引き取ったのだろうかと疑問に感じることがあった。
あたしにはまだ祖父母もいたし、他にも親戚は沢山いる。
そんな中、あの2人があたしを引き取りたいと熱心に申し入れてくれたそうだ。
元々あたしに家事全般をやらせることが目的だったのかもしれないし、両親が残してくれた遺産が目的なのかもしれない。
どちらにせよ、高校を卒業するまでの我慢だった。
卒業後は就職をしてさっさとあの家を出るのだ。
一人暮らしはなにかと大変なのは知っている。
けれど、あの家に居続けるよりも絶対にマシだと確信していた。
「友里、おはよー!」
2年A組の教室へ入ると同時に元気な声が聞こえて来た。
駆け寄って来たのは赤穂梓(アコウ アズサ)。
A組の中では一番仲が良くて、いつも一緒に行動している。
ショートカットが似合う、活発な女の子だ。
「おはよう梓。今日も元気だね」
「もちろん! だって今日もチョコレート食べて来たもんね」
その言葉にあたしは噴き出した。
梓は大のチョコレート好きで、チョコレートさえあればどんなことで乗り越えられると、豪語している。
「友里、おはよう」
自分の席へついたところで長光透(ナガミツ トオル)が声をかけて来た。
透とは中学からの友人で、今はあたしの席の後ろにいる。
「おはよう」
「今日は大丈夫だったか?」
深刻な表情でそう質問してくるのは、あたしの家庭環境を知っているからだった。
気さくに話ができる透には、ついつい相談してしまう。
「大丈夫だよ。いつも通り」
そう言って笑顔を向けても、透は笑ってくれなかった。
「友里の言う『いつも通り』は、俺からしたらあり得ない日常だからなぁ」
そう言ってあたしの頭をポンッと撫でた。
それだけでも、あたしのストレスは軽減されるのだけれど透は気が付いていないようだ。
「2人とも何話してるの? もしかして、昨日の悪魔山のこと?」
そう聞いて来たのは草川夕夏(クサカワ ユウカ)だ。
人一倍好奇心がつよくて、おしゃべりな友達。
クラスのムードメーカーだ。
「夕夏、そういう噂好きだよなぁ」
透が呆れたように言う。
「あの噂は本物だよ! あたしの友達が行ったんだから!」
目を輝かせてそう言う夕夏。
「お前の友達ならそのくらいのことするだろ?」
透の意見に賛成だった。
噂を聞きつけるだけじゃなくて、自分たちで行動していてもおかしくないくらい、パワフルだ。
「これ、見てよ!!」
夕夏が大きな声でそう言い、あたしと透へスマホを突き付けてきた。
何かの写真みたいだけど、目の前過ぎでなにも見えない。
苦笑しつつ身を離して確認してみると、そこには見たことのない女の子の写真が表示されていた。
グレーのブレザー姿だけれど、その制服も見たことがない。
「この子、妊娠してるのか?」
写真の子のお腹が膨らんでいることに気が付いたのは透だった。
制服にかくれて見えにくいけれど、確かにふっくらしているように見えた。
「これ、さっき言ったあたしの友達!」
夕夏が自信満々な表情でそう言った。
「妊娠してるの?」
「そう!」
あたしに質問に大きくうなづいた。
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