カードゲームに負けるとき、疑わしき点はいっぱいある
小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)
第1話 カードゲームに負けるとき、疑わしき点はいっぱいある
エリート校でもないのに校則がアホみたいに厳しい高校で、雑誌の一冊もお菓子の一個も叱責の理由になりうる中、俺らに許されていたのは、だべりながらのカードゲームだった。
だべるのが目的のようなものだから、複雑なルールのあるゲームは
ここまで書いたら、まあまあな青春を過ごしているように見えるだろう、しかし、おざなりの遊戯でさえ負けが続くと、ストレスになってくる。
早い話が、俺はカードゲームの勝率が異様に低かった。後ろに誰かが立っていて、俺のカードの数字や模様を周りに教えているのかとも思ったが、壁際を背にしても、いっそ壁にもたれてやっても、一度も勝てない。
なんでだ……?
ダチに聞いても、口をそろえて「こればかりは教えられない」と言う。そして、「すぐに気づくと思うぞ」とも言われる。
負けたヤツに何かペナルティがあるわけでもないから、ただひたすらに俺が負け続けているという奇妙な現象が続いた。俺も、どうしてかわからなくて、何度もゲームに挑むバカだった。
カードゲームの心理学的な本も読んでみた。相手の利き手と逆の位置にババを移動させてみたりもした。目線もごまかして、相手に悟られないようにと、いろいろ作戦を立てて挑んだが、勝率はあんまり上がらなかった。特にトランプのババ抜きが、ほんっとに勝てない。
なんでだ?
何度聞いても、具体的な返事は得られなかった。
説明しないのではなく、説明できないのではないかと思った俺は、こいつらは、第六感が、いわゆる、勘が鋭いだけなのではないかと思い至った。それなら俺がどうやっても勝てないのは仕方ないのでは、いやしかし、だからって負け続けるのは不快だ。何か攻略法はないものかと、図書館でそれっぽい本を借りて読んでみたが、世界の超能力者の特技とか出身地が載っていただけで、対抗手段は見つからなかった。
何日かして、あいつらとの勝敗が本当に第六感で決まっていたのか怪しくなってきたから、読書の熱が冷めてしまった。だって勘が鋭いわりには、あいつらのテストはほとんど赤点だらけだったから。
そのうちカードゲームもめんどくなって、ただだべるだけの休み時間となったが、あの負け続けていた日々はなんだったのか、その疑問は深ーく後々まで、胸に引っかかることとなった。
普通科が一クラスしかない高校で、俺らはクラス替えもなく、そのまんま三年生になって、卒業式まであっと言う間だった。卒業記念で食べ放題の焼肉店にダチと集った俺は、すっかり忘れていたカードゲームの疑問が頭をよぎり、マジで教えてくれと頼んだ。
「え……アレまだわかってなかったのか?」
一斉にきょとんとした顔を向けられた。
ぐ、恥ずい。悔しい。
「わ、わっかんねーよ。だから、聞いてるんだろ」
しばしの沈黙が過ぎた後、ゲラゲラ笑われた。それはもう、となりの席の親子連れが振り向くレベルの騒音だった。
「笑うなよ、なんで俺だけあんなに勝てなかったのか教えろよ!」
「わかったわかった、そんなキレんなってば」
まだ笑いを引きずりながらも、ダチの一人が俺の顔を指さした。
「そのでっかいメガネ、外してみろよ」
「メガネ〜?」
コンタクトの多いクラスの中で、楽に個性を出しやすいこのメガネの、どこに第六感の秘密が……あ!
ひたすらに個性を出したくて選んだ、太い銀縁メガネの、フレームに、俺の顔がいびつに映っていた……。
「これにカードの色とかババの絵が映ってたのかよ〜!!!」
その日、俺たちは最高に笑ったし、よくわからんテンションで騒いだ。
以上、ただのアホ学生だった頃の、自分語りでした。
大人になった今でも、あの時の衝撃は忘れられない。今は別のメガネを掛けているけど、ときどき昔のメガネもケースから出して、眺めたりするんだわ。
おわり
カードゲームに負けるとき、疑わしき点はいっぱいある 小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中) @kohana-sugar
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