ポンコツ第六感

紫栞

友達の第六感はポンコツ

「ねえ!夏美!聞いて聞いて!彼氏できた!今度こそいい人だと思うんだよね」

「ちょっと別れてからまだ一ヶ月くらいしかたってなくない?早いって紗季。で、今度はどこで知り合ったの?」

大学からの同級生でもうかれこれ10年以上の付き合いになる。

谷村紗季はいつもビビッと来たからとクズ男に引っかかっては大泣きして失恋している。

もうこれで何回目だろうか。

大学時代から派手なメイクとファッションだったけど、なんだかんだ顔が良く周りからモテていた。

それでも本人曰く、追われると好きになれないからとことごとく振っていた。


「今回はネットとかじゃないんだよ?いつもよく行く家の近所のコンビニで、よく見かける人がいるんだけど、その人もうちのことよく見かけるなと思ってたみたいでさ、え、ねえもうこの時点で運命じゃない?」

「紗季は運命感じるの早すぎるんだよ。」

「えーそんなことないよ。今回はちゃんとスーツ着てたし」

「判断基準がそもそももうだめ。」

彼氏が出来たり、別れたり、別れそうだったり、とにかく二人は何か理由をつけてはいつもファミレスで集まって話していた。

大体は紗季の恋愛相談会だった。


「え、というかコンビニからどうやって付き合うまで行くのよ」

「よくぞ聞いてくれました親友。」

「いや、別になんだろ嬉しくないけど」

「いやさ、でね、いつもコンビニで会う人がよ、帰りの電車にいたのよ。しかもドアのとこ立ってたんだけど、真ん前にいたの。もうこれ完全に運命じゃん?ちょっともう我慢できなくて多分ガン見してたんだと思うんだよね。相手が気づいて、あ!みたいな?そこから職場どこかとか家どのへんかとか話してさ、一緒に近くまで帰ってきちゃったんだよね」

「紗季のコミュ力はたぶんいい意味でバグってるし、危機管理能力が間違いなく悪い意味でバグってるよ。」

今回付き合うことになったのは家が近所のサラリーマンらしい。

サラリーマンなら安心だという紗季の意見には賛同できないけど、今までが今まで過ぎて危うくいいかという気持ちになってしまう。


ここで紗季の恋愛遍歴について触れておく。

紗季は中学の時それはそれは地味で、人見知りで、女子とすらまともに話すことが少なく、男子になればもっと頻度は減り、ほとんど学校では一人でいるような子だったらしい。

どこでこんな転機が訪れたのか。


紗季は恋愛漫画を読んで疑似恋愛をしていたがそれだけでは物足りなくなったらしい。

そこで、同じ中学の人が行かなそうな高校をあえて選択し、高校デビューを果たしたらしかった。

それは見事に成功し、信じられないくらい声がかかったらしい。

しかし元々の人見知りが邪魔してなかなか話せない期間が続いた。

それがかえってミステリアスさを生み出してさらにモテたらしいが…。

その時かっこいいからという理由だけで初めて彼氏を作ったらしい。

サッカー部の1つ年上の先輩だったらしいが、他にも何人も学校のマドンナと呼ばれるような女の子と遊んでいて、それはもうクズの鏡のような人だった。

それに懲りて高校ではそれ以降誰とも付き合わずに卒業した。


それでも恋愛をしたいという気持ちは止まらなかった。

大学ではコミュ力が上がってだいぶ話せるようになっていた。

経験値は少ないのにコミュ力が上がったからもう歯止めが利かない。

先輩からはかわいいと声を掛けられ、ナンパにしょっちゅう引っかかった。

ナンパに対しては対処法を身に着けたが、それ以降少しでも優しくされるとなびいてしまう危機管理能力が壊滅的な親友が誕生してしまった。


社会人になってからは遊びも少し派手になり、クラブに行っては付き合ってと言われてホテルに連れていかれたり、バーに行っては妻子持ちの男性の不倫相手になったり、婚活サイトに登録すれば5股している男性に引っかかったりする始末だ。


つい1ヶ月前も、何日も残業だと言って帰りが遅い日が続いていた彼氏を心配してふらふらと相手の会社方面に向かう途中、相手の浮気が発覚。

さらに、他にも浮気相手がいて、ネットで募集した裏垢女子とのワンナイトまでしていた。

そして、浮気相手からお金を巻き上げていて定職に就いていないことも発覚した。

情報量が多すぎて訳も分からず、荷物も全て置いてきた状態で夏美の家に転がり込んで大泣きしていたばかりだった。


「もう、紗季は自分の直感信じるのやめたら?」

「えーだってそしたら何信じたらいいの?」

「紗季の場合は占い師とか信じたほうがよっぽど安全な気がしてくるわ」

「えーそんなの怖いじゃん」

「紗季の話し聞いてる方がよっぽど怖いわ」

大学時代から全て聞いていることもあって心配が止まらない。


そういう夏美は、今は遠距離になってしまったが 大学を卒業してすぐの頃から付き合っている彼氏がいる。

誠実で、夜遊びもせず、仕事の都合で遠距離になってからは今まで以上に連絡を意識して取ってくれている優しい彼氏だ。

夏美は慎重派で見る目があった。

大学で初めて付き合った彼氏とも3年付き合っていた。

外見も性格も落ち着いていて、喧嘩という喧嘩もほとんどしたことがなかった。

就活中にお互いの価値観が合わず別れたものの、友達として今もお互いの夢を応援しており、交流がある。

SNSで知り合った人に告白を何回かされているようだが、どんな優しい言葉にもなびかず、ちゃんと話した上で見極めるしっかり者だった。


紗季が来たのは3ヶ月後のことだった。

「え?どうしたのその傷?!」

いつかのように泣きながら直接夏美の家に転がり込んできた。

「とりあえず家入んな?ってか連絡くらいくれないとあと少し早かったらお風呂入ってて出れなかったけど?」

「うん…ごめん。」

「で、この傷は何ですか?腕にさ、こんなあざになることないよね?普通に生活してたら。包み隠さず全部言いなさい。」

「はい…1ヶ月目はすごい優しくて、外食しても年上だからって全部出してくれて、欲しい物も買ってくれて。でも2か月の終わり位から呼び出されたらすぐ行くか行けない理由を返信しないと怒るようになってきて、その頃は暴力的じゃなかったんだけど、最近になってなんで俺の言う事聞けないんだって叩いたり殴ったりされるようになって、初めは服で隠れるとこだったんだけど、だんだん関係なくされるようになって、別れようと思ったんだけどごめんねって手当とかもちゃんとしてくれて本心じゃないのかなとか思ってたらこんなことになって…夏美に相談もっと早くしてたらよかった。」

3ヶ月で本心が出てしまう方も化けの皮が剥がれるのが早すぎる気もするが、同棲する前に逃げ出すことができたのは不幸中の幸いだった。

その人は元々コンビニでも店員への態度が悪く、暴力的な性格だったようだという事が後々発覚した。

夏美の協力もあり、その人とはちゃんと別れることが出来た。

ストーカーになられても困るのでしばらくは夏美の家で生活した。


あまりに怖かったのかそこから紗季は一年間彼氏を作っていない。

そして夏美は移動先から戻ってきた彼氏と結婚の準備中だ。

最近になって紗季のお母さんが紗季のことを心配して、お母さんの知り合いの子供を紹介している。

「なんかすごい地味でさ、前だったら絶対あり得ないと思ってたんだけど、すごい穏やかで、うちのこと好きってめっちゃ言ってくれるし、それこそちゃんと仕事してるし、今度はお母さんも味方だからその人でもいいかなー」

「え、どうしたの!めっちゃ改心してんじゃん。まあ付き合ってみたら?ためしに。案外うまくいくかもしれないし、無理そうだったらまた新しい人探せばいいよ。」


15年後。

2人は小学生の親になった今でもよくファミレスに集まっている。

今の内容はほとんど子供のことだ。

夏美はそのまま結婚し、今では小6と小2の男の子2人のお母さんだ。

紗季もお母さんに勧められた人と結局うまくいき、今は夏美の下の子と同い年で小2の女の子のお母さんとなっていた。

「聞いてよ!うちの子ませててもう好きな子いるとか言うんだよ?早くない?」

「夏美にそっくりじゃん!」

「え、うちは高校まで彼氏いた事ないし」


Fin

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