第六巻?
ぬまちゃん
それはアナタの隣に座ってる子かも
「やっぱりこのページの問題出たー!」
「こら、試験中は大きな声をあげない」
俺は隣席の彼女に向かってチラリと目線を向けた。彼女は机の上の試験問題に向かって右手で答えを書きながら左腕を心持ち挙げて、俺の驚きに『やっぱりアタシがいった通りでしょう』と密かにアピールしていた。
* * *
「お前さー、どーしてそんなにテストのヤマ当てるの上手いの?」
昼休み、俺がコロッケぱんからこぼれ落ちて制服の上に細かく散らばったコロッケのコロモを軽く払いながら、隣で美味しそうにお弁当を食べてる彼女に尋ねた。
「ほへはへ、ははひのはいほっはんは」
「おいおい、お前さー。口の中に食いモン入れたまま喋るなよ。可愛い顔してるんだからさー、もう少しデリカシーのある態度とれば男子の受けもいいのになー」
彼女は机の上の水筒をつかむと、水筒のお茶をゴクゴクと勢いよく口の中の食べ物と一緒に飲み込んだ。それから口の周りを丁寧にティッシュで拭いて俺の方に体を向ける。
それからニコリとして俺に向かって口を開く。
「あら、心配してくれてありがとう。別にアタシは不特定多数の男子に興味を持たれたいと思ってないし。それに、好きな男の子の前ではこんな振る舞いしないわよ」
「ああそうですか、それはよござんすね。で、お前のカンの良さは何なのさ?」
「ふふふ、それは企業秘密よ。あ、別に悪いことしてる訳じゃないからね。君にはお隣さんのよしみで情報共有してあげてるんだから、あまりバラさないで。わかった?」
「まあ、ヤマ教えてもらってる立場だから強いこと言えないしな。わかったよ、秘密にしといてやるよ」
俺は彼女の口にした『秘密』という言葉にドキリとしながら口を閉ざした。
* * *
部活が思いの外早く終わって教室に戻ると誰もいなかった。まだ他のクラスメート達は部活動真っ最中なんだろう。
俺は帰ろうとして自分の机の中を覗き込んでいた。すると隣の席の机の中がうっすらと光っていた。
へ? なんだ?
日が短くなって教室が薄暗くなっていたから、彼女の机の中から光が漏れているのに気がついた。俺は不思議な気分になってそっと彼女の机の中を覗き込む。
手前にある教科書をどかすと、ぼーっと光っているハードカバーの本が現れた。俺はその光る本を机の中から取り出してまじまじと眺める。
表紙には見たこともない文字や五芒星が描かれていた。なんじゃこれ? 俺の頭がパンクしかけた時、突然俺の肩をそっと叩く気配を感じて慌てて後ろを振り向いた。
そこにはお隣さんが困った顔をして立っていた。
「こらこら、人の机の中を覗いちゃいけないんだぞ。学校で習わなかったかい?」
「ご、ご、ごめんよ」
俺はなんの気配も感じさせずに後ろに立っていた彼女にビビってしまい、声が続かなかった。
「仕方ないわね。どうせ君の記憶は改ざんするから教えてあげるね。その本はアタシ達魔法少女が使う魔導書なの」
彼女は冷たい微笑みを浮かべながら俺の手元から本を取り上げる。
「そして、この本は魔導書の第六巻目。試験のヤマを百発百中で当てる『第六感』の魔導書なの……、これで君の謎は解けたかな。じゃあ、お休みなさい」
彼女はそう言って俺に近づくと自分の唇を俺の口に当てる。俺の記憶はここでプツリと途絶えた……
* * *
「おはようー、今日の試験のヤマも教えてあげようか?」
「おう、おはよー! お前のヤマカンいつも当たるもんな。今回も頼んだぜ」
テストのプリントを持って先生が教室に入って来た。さあてと、今日も隣の席の彼女のよく当たるヤマカンを信じるかな。
俺はシャープペンと消しゴムを机の上に置いた。
(了)
第六巻? ぬまちゃん @numachan
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