第六感:死
大垣
第六感:死
若者、一人の大学生が第六感で感じ取ったものは紛れもない死だった。
若者がそれを感じ取ったのは夜、ベッドに寝転がり何気なく天井を眺めていた時だった。ふいに訪れたそれは、運命であり呪いであり、神託であり助言であった。
若者は余りに考えずに、それを素直受け入れた。
しかし若者は別にこれといって人生に絶望していたわけではない。どちらかといえば、これまでの人生は実にトントン拍子だった。優しい両親の、貧しくも裕福過ぎもしない普通の所得の家に生まれ、公立の高校に入り、国立の大学に進んだ。友人は少ない方だったが、幾らか親友はいたし、一人で寂しい訳ではなもなかった。そして勿論、不治の病気やケガを負っている訳でもなかった。
それでも若者が死を受け入れたのは若者が「自分はそうであるべきだ」とどこか心の中でいつも感じていたからである。
若者はコンクリートで舗装された道路のように凹凸のない安定した、何事もない自分の将来を見え透いていた。また例え予測に反して自分の将来が波乱万丈の息をもつかせぬ怒涛の人生を歩むのも若者にとって好ましいものではなかった。
つまるところ、若者は二十代になったばかりだというのに人生に飽きてしまっていた。これから先、あらゆる地球の、あらゆる生命体が、同じような生活をし、同じようなことで悩み、同じようなことで喜ぶのであろうと、そして同じように死ぬのだろうと若者は思っていた。その営みは若者にとって徒労のように感じられた。
そんな織りに第六感で感じ取った「死」は、若者にとってまさに天啓と言えた。普通の家庭に生まれ普通の教育を受けたが故に、肉体と脳とが固い倫理観の縄で縛られていた若者は、それから解き放たれ背中を大きく暖かな手でもって強く押されたような気がした。
若者は安堵した。自分は死んで良いのだと、自分は今死ぬことが正当な運命なのだと思うと喜ばしかった。自分にとってこの「死」は、一切混じりけのない、極めて純粋な、プラトニックな自殺だと思った。若者はそこに僅かに誇らしさすら感じるのであった。
若者はベッドの上で涙を幾らか流した後、部屋の整理も遺書も書かずに、財布もスマートフォンも持たないでアパートの部屋から月の出る夜へと飛び出した。
若者がその後どうなったのかは知るよしもない。部屋の白い明かりは、まだ煌々と点いたままである。
第六感:死 大垣 @ogaki999
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