シンプルすぎてもどかしい

嵯峨嶋 掌

見てはいけない

 見てはいけないものを見てしまった。

 そのつど、不安と悔悟かいご憤懣ふんまん……の感情が、どっと押し寄せてくる……。

 これが第六感というものなのだろうか。

 その場でもう一人の自分が何かをしている……そんな光景が目の前にあらわれる。ビジョンと呼ぶべきものなのか、それとも予知能力が芽ばえたとでもいうのだろうか。

 見たくはないのに見てしまう。

 見てはいけないと思いつつ、はっきりとその光景は現れる。

 わたしは不安にかられる。

 言葉にはなり得ようもない、おぞましさを伴う悔悟と絶望と……そして快感。雑多な感情がわたしに襲いかかるのだ。


「先生……心理学的に、見てしまったイヤな光景を忘れる方法って、ありますか?」


 心療内科を訪れたが、ドクターにも原因は分からないようだった。


「うーん、見てはいけないもの、というのは、あまりにも抽象的すぎるからね。人によって受け止め方が異なる。たとえば、浮気の現場、犯罪の目撃、自分に対する陰口……キミの場合は、どうなんだろうか……」


 そうかれてわたしは返答に詰まった。

 言うべきか……言わざるべきか……。

 一度、口に出してしまえば、怖ろしいことが待ち構えているような気がして、わたしはそんな不確かな予感におびえた。


「どうしたのですか? 聞かせてくれないと、判断のしようがありませんよ」


 せっつかれて、わたしは吐息混じりにつぶやいた。


「何を見たか、どうしても、言わなきゃいけないんですか……うーん、見たのは……これから、先生の首をめる自分の姿でした……」



                 (了)

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シンプルすぎてもどかしい 嵯峨嶋 掌 @yume2aliens

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