第六感がプラスに働くとは限らない

花見川港

とあるプロローグ

 俺はくじ引きが苦手だ。


「くじ一回ですね。どうぞ」


「あ、はい」


 放課後に立ち寄ったコンビニでは、七百円以上でくじ一回のキャンペーンをやっていた。そんなつもりはなかったのに、菓子を買い過ぎてうっかりくじ一回分の会計になってしまった。


 目の前に出された箱に腕を突っ込み、三角の厚紙を掴む。当たりが出ればその場で対象の景品と引き換えてくれる。


 くじを開いた。やっぱり、抽選の応募券――つまりはハズレ。


 ハズレくじをポケットに突っ込んで外に出ると、先に出ていた友人がペットボトルの炭酸ジュースを差し出してきた。


「これやる」


 ジュースと菓子を買って引いたくじで買った物と同じのが当たってしまったらしい。俺は飲み物は買ってなかったのにで、俺が買ったいくつかのおやつから好きなのを選んでもらって交換する。


 あ、当たった。


 炭酸ジュースに付いていたファーストフード店とのコラボのくじ。当たりはファーストフード店の一品の引換券で、Lサイズポテトのが出た。


「え、当たったのか?」


 炭酸ジュースのハズレくじをぴらぴらと揺らしていた友人は「いいないいなー……くれ!」と俺に手のひらを上に向けて差し出した。


「いいよ」


「さんきゅー!」


 ズゴゴゴとストローを吸っていたもう一人の友人があきれた目をする。


「お前、一度やったもんを……」


「別にいいだろ! もともと俺が買ったもんだし」


「そうだよ。俺は別にいらないし」


「……お前はほんと人が良過ぎる」


「あはは」


 あいつが選んだから当たったくじだとわかってるから、別に惜しくない。


 自分で選んだくじはいつもハズレばかり。たまに当たるのは、いつだって他人のくじ。


 だから俺はくじ引きが苦手だ。


 選ぶことが、苦手だ。


 しかし俺は今選択に迫られている。人生の第一の分岐点として、高校受験という名の選択。どこでもいいから選んで欲しかったが「ちゃんと自分で選びなさい」と親にも教師にも言われてしまった。


 選択肢は友人と一緒に見学に行った場所。目の前に学校案内のパンフレットを並べる。金銭的にも学力的にも大差はない。本当にどこでもよかった。片っ端から受けて合格したところに入ればいい。けれどその前に、学校には第一志望、第二志望を明確にしておかなければならない。期限のギリギリまで俺は悩んだ。


 結果的に俺は第一志望に合格した。


 報告したら教師からはおめでとうの一言をもらい、その日の夕飯は御馳走になった。家族の祝杯ムードの中、俺は独り憂鬱な気分で箸を噛む。


 嫌な予感がする。


 消極的にとはいえ、志望の空欄にあの学校を記入したのは俺だ。適当に。だけどこれは、くじを引いたのと同じではないか?


 迫る高校生活にドキドキしている。


 桜吹雪の下、これから始まる新生活に期待に胸を膨らます若人たちに紛れて、俺は一人冷や汗をかきながら校舎を見上げていた。


 もう覚悟を決めるしかない。


 深呼吸をして校門を抜ける。




「これは現実です」


 まだ話したこともないクラスメイトの頭が吹き飛び、周囲は阿鼻叫喚。隣で女子生徒が泣き崩れ、俺は立ち尽くし、巨大な怪物が大口を開けて迫ってくるのを凝視しながら心の中で叫んだ。


 こんなこったろうと思ったさ!

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