第六感対ロッカー(思春期少年は水泳部の先輩女子の下着を見たい)

青キング(Aoking)

第六感対ロッカー(思春期少年は水泳部の先輩女子の下着を見たい)

 大井智樹は冴えない高校生――だった。

 しかし先日、突如として第六感ともいうべき超能力を自身が有していることを知覚した。

 その超能力というのが透視だ。

 それも単なる透視ではない遠隔での透視である。だが極めて使い勝手の悪い能力でもあった。何故なら――


 ロッカーの中身しか透視できない、からだ。


 ロッカーだけか、と最初は落胆した智樹だったが、五月下旬のある日のこと。

 そろそろ水泳部がプールで練習するぞ、というクラスメイトの何気ない会話を漏れ聞いた。


 瞬間、智樹の頭に稲妻のような閃きが光った。


 女子水泳部のロッカーを練習中に覗けば、下着が見られるのではないか?


 その着想を得ると、すぐに女子水泳部の部員が誰かを思い出す。


 森部美海もりべみう


 切れ長で整った目尻に艶やかな黒髪を細長いポニーテールに結わえた、侍のようなイメージの女子生徒だ。

 女子水泳部は森部美海の一人しかいなかった。

 けれどもその美海は智樹にとって至高のターゲットとも言えた。

 

 智樹が高一の頃、当時二年生だった美海が女子水泳部として県大会に出場し、優勝したという内容の記事を校内の掲示板で読んだ。

 水泳での活躍抜きで校内では美人として隠れ人気があった美海は、校内の誰もが知る有名人となった。その誰もがの有象無象の中に智樹も含まれており、朝礼で賞状を貰う美海の姿に見惚れた経験があった。

 

 それだけに卑小な自分には縁遠い存在だと思っていた。

 けれども、今はもう美海の恥部を覗く力を自在に扱える。


 智樹は決断した。


 森部先輩の練習中にロッカーを透視しよう、そして――下着が見よう!




 プール練習が解禁する一週間前から智樹は本番と同じロッカーで予行演習をした。

 演習を通し能力に関していくつか判明したことがある。


 一つは、能力の使用には一日三分間という時間制約があること。

 二つは、透視だけでなくもう一つの手の如くロッカーの中身を物色できること。

 以上の二つだ。


 自身の能力の及ぶところを把握した智樹は、次に美海の使用ロッカーを特定するために普段の持ち物について観察した。

 そして美海個人を特定できる持ち物が判明した。

 

 スクールバッグに取手に付けられた三毛猫のストラップ。


 意外に可愛らしい物を所持しているな、という私情の感想を抱きつつも、智樹は三毛猫のストラップを脳内にメモした。


 準備は整った。

 水泳部のプール練習解禁の日、智樹は計画を実行した。



 放課後になるとすぐに帰宅して自室に籠り、頭の中が美海のことで一杯の瞑想になっていない瞑想の真似事をして時が来るのを待つ。

 帰宅してから約三十分後、スマホの時刻が五時半を示すとライティングデスクの回転椅子に腰掛け、念のために用意したボックスティッシュを脇に置く。

 

 深呼吸を数回繰り返し、蔽目する。

 女子水泳部の更衣室のロッカーに全意識を飛ばした。


 墨で塗られたように暗黒に包まれた空間で、ロッカーだけが形そのままに白く浮かび上がった。

 更衣室そのものを透視できるならば覗きも易々と敢行できたのだが、神様からのR18指定か覗きが可能なのはロッカーだけだ。

 暗黒の中に浮かび上がったロッカーに智樹の遠隔操作された意識が近づく。

 

 最も手前のロッカーから検分する――――空。

 隣――――空。

 隣――――空。

 隣――――空。

 

 簡単には引当てられない。

 智樹は焦れる思いで虱潰しにロッカーを透視していく。

 焦りが苛立ちに転化する直前、反対の壁へ折り返す位置にあるロッカーにスクールバッグ、制服のブラウスとブレザーとプリーツスカートが畳んで置かれている。

 智樹は制服には目もくれずに、スクールバッグの取手部分を確認する。

 

 あった。三毛猫のストラップだ。

 

「残すは下着を探すだけだ。普通ならブラを優先しそうだが俺は違う。先にパンツだ」


 この場にブラ派がいたら討論になりそうなしょうもない独り言を漏らしながら、ロッカー内を見回す。

 目につく所には置かれていない。


 捜索する興奮と恥部を見てしまう後ろめたさが綯い混じり、智樹の右手が無意識にボックスティッシュに伸びる。

 目につく所にないとすれば、単純に目に見えない所にあるわけだ。


 遠隔操作される智樹の意識は制服に食指を動かした。

 実際の智樹の右手はティッシュを摘まんで、ズボンの中へ向かおうとしている。

 

 だが制服をまさぐるように探してもブラもパンツも見つからない。

 智樹の息子がちょっと萎えた。


「……よく考えてみれば制服の中にしのばせてるわけないか」

 

 智樹は思い直して、下着捜索を続行する。

 制服と一緒に無いとすれば残りはスクールバッグの中だ。


「……追い詰めたぜ」

 

 逃げるヒロインを袋小路に誘い込んだ悪漢のように悪ぶって呟く。

 遠隔の意識がスクールバッグに食指を動かすと、同時に智樹の右手がズボンの中に入り息子を奮い勃たせた。 

 スクールバッグの中をオペする手術医の如く丁寧に物色する。

 

「……あれ?」


 バッグの中を隈なく探したが下着の類は見つからなかった。

 ないなんてことはないだろう、と智樹は気を取り直し、今度は一つずつ中身を摘出していきながら内外のポケットさえも覗いて下着の姿を追い求めた。


「…………え?」



 唖然とする間の長い声が漏れる。

 スクールバッグにも下着が無い。

 となれば、どこにあるのか?


「………………まさか!」



 愕然と考え付いたところで制限時間の三分が切れた。

 突如に智樹の視界一杯を激しい光が包んだ。


 光に眩んだ目を閉じると、遠隔操作していた意識が反動の強い巻き尺のように手元に跳ね返ってくる。

 意識が帰還すると智樹の息子が液を噴出した。


「……ああ、なるほどね」


 下着が存在しないことに対する智樹の推理が纏まった。

 たちまち表情が弛緩する。


 部活帰りの森部先輩はノーブラノーパンなんだ!


 もう一回、智樹の息子は液を射出した。



 この日以降、智樹だけが美海の変わった一面を知り得る人物となった。



         


             完        

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