突然の別れ

 私は今までの人生で一度も身近な人の死を経験したことがない。なんならお葬式だって一度も行ったことがない。そんな私に訪れた突然の訃報。いつも通り部屋でダラダラし、そろそろ寝るかと歯を磨きに部屋を出たところで、父方の祖父が亡くなったことを知らされた。部屋を出ると暗い声で母が姉と電話していて、何の話だろうな~なんて呑気に考えながら横を通り過ぎようとしたとき突如かけられた言葉。

「おじいちゃん亡くなったんだって」

 一瞬理解が出来なかった。突然のこと過ぎて、信じられなくて私は何度も聞き返した。



 母方の祖父は私が生まれたばかりの頃に亡くなっていて、物心ついた時にはいなかった。だから父方の祖父が唯一の祖父だったが、小さい頃から年に2回くらい顔を合わせるだけで大した関わりがなく、おじいちゃんというより知り合いくらいの感覚だった。そんな祖父だから、より一層亡くなったと言われても実感が湧かず、何となく頭で理解はしても状況は呑み込めなかった。しかし、布団に入ると色々な感情が込み上げてくる。その日はあまりよく眠れなかった。翌日、なんだかよくわからないまま斎苑に行って、5~6年ぶりくらいにおじいちゃんの顔を見た。まるで眠っているかのようなとっても綺麗な顔。私は思わず息を飲んだ。綺麗すぎる顔からは全く生気を感じられない。そこで私は、もうおじいちゃんはここにいないんだと悟った。初めて人の死を目の当たりにして、何とも言えない感情が込み上げてくる。亡くなったおじいちゃんを目の当たりにした今でもまだ、亡くなったという現実が受け止めきれなくて、実感が湧かないから悲しいとはまた違った感情。私の心の中で複雑な感情が渦撒いていた。あのおじいちゃんの顔は今でも目に焼き付いて離れない。目を腫らしたようなおばあちゃんの顔を見て余計に胸が痛んだ。


 私は父方の家にあまり良い印象がなく、家族仲が悪いものと思っていた。お盆やお正月などに会いに行っても、あんまり会話している様子がなく、お互いに無関心。自分の父親を見ていても、家族に対する愛情を感じないから、きっと父の家族もそうだったのだろうなと。だから何となく父方の祖父母が苦手で、年に数回しかない会いに行く機会も、行くのが嫌だった。でも、亡くなったと聞いた今は、当たり前だけど嫌だなんて思う気持ちはこれっぽっちもなくて、最後くらいちゃんと会いに行こうと思った。

 私には姉と弟がいるが、姉は仙台、弟は東京にいる為このご時世というのもあってそう簡単には戻ってこれない。だから、実家にいる私だけがすぐにおじいちゃんの元へ向かって、一番私が父やその家族と一緒に居る時間が長かった。その為、今までは知らなかった父の一面や、向こうの家族の一面が見れた。私は今まで、父もその家族もロボットか何かだと思っていて、感情がなく人間らしさがまるで感じられない冷たい人たちだと思っていた。今思い返せば、特にそう思うような経験をしたわけではなかったけど、小さい頃から母親に刷り込まれた先入観がずっと自分の中にあって、それがいつの間にか、本当に自分が見たかのような風に思い込んでいたのだ。だから私はずっと向こうの家族に壁を作っていた。でも今回のことがあって、いろんな人と関わって、全部私の思い込みだったんだって思った。当たり前だけど、彼らはちゃんと人間だった。

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