使わない金に価値はない
シヨゥ
第1話
「金は使うためにあるんだ」
彼は言う。
「使わない金に価値はないとすら思っている。だから使い道があるうちに使うべきだと思っているんだ」
「奢ってもらって悪いんだけど……貯金しなよ?」
支払いを終えた彼は少し清々しく見える。
「やりたいことが尽きたらするかな」
「それはいつなんだ?」
「明日かもしれないし、死ぬまでやりたいことが尽きないかもしれない。いついつから貯金する、なんて将来のことは言えないさ」
昔から向こう見ずな性格だった彼。独り立ちして稼ぐようになってから磨きがかかっている。
「それでいいと納得しているならいいけどさ」
「もちろん。いつだって納得した上で金は払っているさ」
「そういうことじゃないんだけどさ。まあ買い物失敗しても笑って話してくれるんだから納得しているのは間違いないんだろうけどさ」
彼を見やると財布の中身を確認していた。
「何をしているの?」
「残りはどうやって使おうかなって」
高給取りではないのに凄い悩みを持つものだ。
「ほどほどにな」
「そんなのつまらないだろ。いつも全力でいかないと」
「分かった分かった。生きてくれさえすればそれでいい」
本当に彼に願うのはそれだけにしたほうがいいだろう。価値観の違いで惨めに感じそうだ。
「それであといくら残っているんだ?」
「300円」
「……はい?」
「300円。給料日まであと一週間。ワクワクが止まらないぜ」
「なぜ奢ったし」
「奢りたかったから」
「ああもう。金貸してやるからこれで生きろ」
向こう見ずにもほどがある。そう思わざるを得ないのだった。
使わない金に価値はない シヨゥ @Shiyoxu
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