第13話 闇の中 その1 奴等
ルミィが抱き起こした店番、エディはディアナの瞳を見つけるとホッとした表情になった。
「お嬢様、良かった・・・・・・・・恐ろしすぎて、一人っきりでは死のうにも死にきれないかと心配していたところで。
あっしが無事に導かれるように祈って下さいませ」
死への恐怖からか、焦燥に駆られるようにエディは話し続ける。
「ご主人様はご無事でしょうか。他の使用人達も・・・・・・・あぁ、こんな時にお嬢様がいないなんて!」
「エディ、私はここよ」
「あぁ、お嬢様、良かった、ご無事で」
エディの話しぶりは興奮と恐怖が入り交じり、不安と安堵が入れ替わるように姿を現す。
その落ち着きのなさは、二人に死に際の狂気を連想させた。
「落ち着いて、エディ。何があったのか教えて欲しいの」
突然、エディは悲鳴を上げた。
叫び自体は弱々しいものであったが、静かな闇の中へ悲鳴は溶け込むように広がっていく。
その声に反応するものがないかと、ルミィは周囲に注意を向けたが、エディの悲鳴は闇の中へ溶けていくと、そのまま消えていくだけだ。
エディの叫びに応えるものはない。
「あぁ、恐ろしい。恐ろしいことが起こりました」
「エディ、大丈夫よ。落ち着いて教えてちょうだい。私はここにいるわ」
彼は声のした方へすがりつくように手を伸ばし、ディアナの手を見つけると残りの力を振り絞るようにして握りしめた。
「あぁ、落ちそうです。お嬢様っ!助けて下さい」
「大丈夫よ、私はここにいる。あなたを手を掴んでいるわ」
「ああ、お嬢様、とんだ厄災が降り掛かりました。
あの客人があんな毛皮を持ち込むから」
「・・・・・毛皮?」「客人!?」
「あぁ・・・・・・・毛皮は剥いだばかりのものでした・・・・・あの怪物のものだと、すぐに評判になりましたが、私は恐ろしくて・・・・・・。
代官の使いが来て、客人もろとも毛皮を運び出してくれた時は安心しましたのに・・・・・・」
「エディ、その客人というのは二人連れの男だったのか」とルミィは勢い込んで尋ねる。
「たとえ毛皮を持っていなくたって、得体の知れない客だと気づきました。
誰かに注意を受けていましたっけ・・・・・・あぁ、思い出せない・・・・・
お屋敷が村の入り口にあるせいで、いつもいつも真っ先に見知らぬ客が押しかけてくる・・・・・」
ルミィもまた見知らぬ客であり、エディからすれば得体の知れない男であったことだろう。
そう思うと、ルミィはエディに謝罪を入れたい気持ちになったが、余計なことは口にせずに、彼はエディの話を待つことにした。
「ご主人様が別の場所にお屋敷を移すか、あっしが勤め先を変えるか、考えないといけません」
「エディ!分かったわ、お父さまによく言っておく」
「あぁ、お嬢様!勤め先を変えるなんてとんでもない・・・・あっしはご奉公を続けさせて頂きますよ」
「えぇ、エディ。お願いするわ」
「あぁ、でもとんでない!もうおれも村もおしまいだぁ!
・・・・・・お嬢様、あっしはもうお仕え出来そうにありません」
「何を言うの。あなたは大丈夫よ。まだ頼りにしているのよ」
「エディ、客人は二人組だったのか」と我慢しきれなくなったルミィが質問を挟んでくる。
その質問にエディは苦しそうに声の主を求めて首を巡らせる。
ディアナは咎めるような視線をルミィに向けてきたが、エディが返事を出来る時間はそれほど残されていなさそうだった。
もう力尽きてしまったのか、と思うくらいに時間が経った時に、突然思いだしたように、エディが切羽詰まった声を上げた。
「二人が悪魔を連れてきた!あの二人が悪魔を村におびき寄せた。
悪魔の毛皮なんかを、あの二人が!!
だから悪魔が取り返しに来たんだ。あの男達は悪魔の使者だった!」
「二人は来たのだな」
ルミィが念を押すようにエディに尋ねる。
「ああ、恐ろしい奴等!悪魔が全てを引き裂いた。
屋敷も、おれの身体も・・・・・・・・」
エディはむせび泣くように呻きながら、自らの傷に手を伸ばし「世界も・・・・・屋敷中を破壊した・・・・・・」
むせび泣き、涙の中で錯乱している者に、それ以上の確認をしようというのは無理な話だった。
必要なことは確認できた、とルミィは判断した。
顔を上げると、ディアナが見つめる瞳に光が宿っているのに気づく。
それを目にした途端に、ルミィは自分が果たさなければならない義務を思い出した。
エディの状態は思わしくない。
ルミィは言わねばならないことを口にする。
「ディアナ、彼女をゴッドフリーの元に連れて行き、手当をしてもらわなければ」
彼が言い終わらないうちに、ディアナは激しく首を振った。
「私はルミィから離れない。
村の中のこともあなたはよく知らないのに、どうやって行動するつもり?
あなたを独りにすることなんて出来ない!
だって・・・・・・ルミィ、あなた死ぬ気でしょ?」
「まさか、私には使命が残されている。生きて還らなければならない」
「だったら、あなたには私が必要なはず」
「だが、このままではエディはどうなる?ここに置き去りにする訳にはいかない」
いや、ゴッドフリーがどんなに名医だとしても、彼を救うことは出来ないだろう、とルミィは既に分かっていた。
それでも、怪物が遠くにいる間に、彼女を村の外に向かわせなければならない。
その瞬間、遠くからではあったが、新たな何かが壊れる音が響き渡り、同時に何か分からない衝撃が身体に伝わってきた。
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