第4話 訓練 その4 ディアナの推理

ピンと来るべきは、オーガスタとアーキンの二人組だ。


近隣諸国に名を馳せる悪党の二人組。

強盗・殺人・拐かしと犯した数は途轍もない量に及ぶ。

その上に各国の権力者共から依頼された裏の汚れ仕事までも引き受ける。

暗殺や誘拐・脅迫などもお手のものという連中だ。


リーダー格のオーガスタの方だって六尺もあるが、相棒アーキンの隣では小男に見えるほど。

オーガスタの腕前だって尋常じゃないというのに、七尺も在りながらアーキンの方が更に一層凄味のある手練れと噂されている。

こんな大男の二人組なら目立ってしょうがなさそうだというのに、なぜか事件が露わになるまでは誰もその存在に気づかない。


狙った獲物は逃さず、二人を相手にしたら命は幾ら有っても無いに等しい。


ここでディアナは思い出した。


「自分と同等かと感じる男と剣を交えなければならなかったし、自分では負けているかも知れない男とも戦わなければならない場面があった」と、ルミィが話していたではないか。

しかも「負けないようにすることしか出来ず、勝負は決着しなかった」とも言っていた。


あの時は、ルミィほどの腕前でもそんなことを考えなければならない相手がいるのかとゾッとしつつも現実感が無かったものだ。


重ねてディアナが「白黒付けなかったということ?なんで?」と聞いたら何と答えたっけ?確か、こう言っていたはずだ。


「真剣での勝負は負けたら死んでしまうからだ。まだ、死ぬ訳にはいかなくてね」


この話を聞いた時は、命が惜しいのかと思ったが、相手があの二人なら事情も違ってくる。

本当に命が惜しいのなら、二人が来るかも知れないと聞き回ったり、自警団の訓練なんか引き受けずにさっさと逃げ出せばいい。


おそらく真意は逆だ。

彼らがこの村に来ると知って待ち伏せようというのではないか。

だからこそカムワツレ王国へ剣術指南に行くと言いつつ、自警団の訓練を引き受けて、長逗留も不自然に見えないようにしたのでは無いのか。


でも、そうしたら命の危険を冒してまで、二人を待つ理由はなんだろう。


・・・・・・・やっぱり女がらみ?・・・・・・まさか!ルミィは、そんな男には見えないじゃない、とやや憤慨しながらディアナは考え込む。


ゴッドフリーも「こんな訓練をする剣術師範は見たことないわい」と驚いた、あの軍事教練っぷり・・・・・あれからすると、剣術師範というのは嘘偽りの身分で、本当は聖アスカ王国の巡察隊員か騎馬憲兵隊員といったところじゃないのか。


ディアナの予想では本命は騎馬憲兵隊員の方だった。

騎馬憲兵こそ、より抜きの腕前の精鋭ぞろいだとゴッドフリーも言っていた。

あの神業的な技の冴えも、騎馬憲兵隊の一員というのなら納得も行くというもの。


そうなら、ルミィが「弟子」と言うべきところを「部下」と言ってしまうのにも説明が付く。


ただ、任務遂行中の騎馬憲兵隊員が例え隠密行動でも単独で活動するだろうか。

あれほど腕が立つのだから貴重な人材であろうに、危険な任務を一人で任せるというのは無謀ではないか。


だとすると、今回の任務遂行中に相棒を失ってしまったということも考えられる。


・・・・・・・いやいや、任務遂行中ではなく、二人組にしてやられて逃げられた上に、仲間にも被害を出してしまったのではないか。

言われてみれば、あの質問に答えた時には苦渋の表情がうかんではいなかったか。

汚名挽回か敵討ちとばかりに二人組の先回りをしてやって来た元憲兵隊員とか?


ディアナの想像は膨らむばかりだが、真実は分からないままである。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


さて、ディアナが裏付けのない想像に浸る間に、ルミィはまた別の男と知己を得た。


そこはイズノ村では歴史の浅い夜の街、新興の酒場であった。


「おまえがルミィ・ツェルクか」と声をかけられて、その方に顔を向けると、ひょろりと背の高い男が立っていた。

しかも、代官の衛士隊の制服を着ている。


「なんだ、なんだ、この村では役人が酒場で庶民を付け回すのか」


「せっかく寛いだところを申し訳ない。おれのほうも仕事だ。因果な役回りだが仕方ないだろう」


「自警団なんかと関わっているからと、嫌がらせするのが仕事か」


「まさか。

おれの役目は衛士隊でも代官の警護や、商隊の警備とは関係ない。だから、嫌がらせなんて面倒はやらねえよ」


男の言葉にルミィは興味の色を示した。


「おれは衛士隊でも村の警邏を任されている。ホスキンと呼んでくれ。一応、衛士隊警邏部隊の責任者だ」


「責任者・・・・・・それが何の用だ?」


「自警団の剣術師範が毎夜毎夜、酒場に顔を出し、ろくに酒も飲まずに、村に出入りする人間を調べていると聞けばその目的を知りたくなる。

剣術師範がなんでそんなことをしているんだ?」


「なるほど、それが仕事なら仕方ない。だけど変な噂が立っても困るから、訳を話しても内密にお願いしたい」


「それは約束しよう」とホスキンが請け合うと、ルミィは店番のエディに話したのと同じ内容を説明した。


ホスキンは首を振った。


「話は分かったが、仇討ちの決着をこの村で付けようというのはいただけない。

村では決闘は禁止されている。決闘を理由に殺し合いなんかされたら困るからな。決闘をした場合にはお前は留置所にぶち込まれて、巡回裁判に回されることになる」


「それでも降りかかる火の粉は払わなければならない」


「・・・・・・・・・・分かった。

と言っても、決闘を許可することは出来ない相談だ。ただ、それらしい奴が来たら教えてやるから、お前は決闘なんかしないでさっさと村を出るんだ。それが俺に出来る最大の譲歩だな。これでも大サービスなんだぜ。

約束できるか?」


「仕方ないな。あんたの言う通りにするから、もうしばらく村にいさせてくれ」

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