第6話     雪に覆われた銀世界

      ジリリリリリリ……………


 けたましい目覚まし時計が、部屋中に鳴り響く。時計のボタンを押してぼやけた頭で時間を見る。

『5:30……起きなきゃ遅刻する〜眠〜い』

 まだ幸せそうに眠っているテリーを揺り起す。

「ほれ、テリー起きろ。朝だよ」

「う〜ん。あと5分寝かせて」

『この野郎。この間もそういいながら、結局1時間寝てて朝食抜きで学校に行ったのを。もう忘れてるんだからその上、寝坊したのを人のせいにするし嫌になるわ。学校内ですれ違う度。お腹空いた~って言ってくるし。……もおぉ~』

 まぁ昨夜に起してしまった自分にも責任は有るし…また、根にもたれたら困るので、起すことにした。

「テリー起きろ遅刻するぞ、この前の二の舞になっても良いの?」

 テリーは、眠い目を擦りながら、不機嫌そうに起きる。

「う〜ん。眠い〜」

「頑張れ、今日は午前授業だろう。それに頑張れば、明日は連休だ」

 テリーを励ましながら起こしてやる。


 昨夜の降った雪でまだかなり積もっていると思っていたのだが、今回は早くから作業していたのか、暗闇の中ライトの灯りを頼りに、既にご近所さんが出てきてて、毎日通る車の為に雪掻きを頑張ってくれていた。時折嬉しそうに手を振ってくれる知り合いのおじさんおばさん達に、テリーそして後部座席ではタキとクリスが笑顔で答えるように、手を振り続ける。

 途中の道で親に引率された同じ学校の子等を拾い、子供たちは親に手を振ると、再び車は走り出す。雪は薄らとしか無く、林道側にかき上げられた低い雪の壁ができていた。その様子を車内で見ていたタキは、陽もまだ上がらない時間帯から、みんな汗を拭きつつ頑張っている姿に毎年思うが、何時から皆んな頑張ってるだと思っていた。そんな中でも感謝しながら、その中を徐行させ、スクールバス指定の停留所に向かっていた。


 停留所に到着し、扉を開くと冷たい風が車内の中に吹き込んできた。毎回のことながら急に冷やされるのは苦手だ。

「6人とも、気を付けて行ってくるのよ」

「はーーーーい!!」

 車内が響く程の大声で威勢よく6人は声を揃えて返事を返した。車内は大賑わいだ。

「相変わらず元気でよろしい!二人ともママ帰るの多分22時半頃だから、先に寝てるのよ。夕飯はパパが凝った料理を作るって張り切ってたから、楽しみにしててね」

「了解!…ママもね。研修頑張ってきてね」

 助手席に座っていたテリーが笑顔で答える。

 その笑顔を見て、リキータは胸がキュンとして、テリーを抱きしめていた。

「なんて、可愛いの私の天使ちゃん」

 テリーの頬に何度もキスをするとギブスに当たらないように、鞄の紐を肩に掛けてやると、そのまま外に出ていく。その隙を狙って母に捕まる前にさっさと後部座席から外に出ようとしていたタキだったが運悪く、逃がさんと言わんばかりに、母に腕を捕まれると、頬にキスをしなさいというように、乗り出してきたリキータに、しょうがないなと、溜息を付きながらも短く軽いキスをして、さっさと出て行ってしまった息子に、最近のタキは連れないと文句を言いつつ、職場に向かう為に車を走らせて行ってしまった。

「今朝は雪が上がってくれて良かったね。帰りも降らなければ良いのに」

 ナギが心配して、曇り空を見上げていたら、クリスが安心させる様に、今日の天気を話してきた。

「帰る時間帯は大丈夫だったよ。今朝見た天気予報ではね。夜半過ぎから朝方まで雨が降るって、どこまでこの雪が融けるかな?…それでなんだけどさ、今日は午前中だけだし、夕飯まで裏山で久々にソリーやらない?テリーがこれだから、スノボーは無理だしさ」

 クリスの提案に皆が同意をした。

「やる!やるやるーー。今年の冬は弟が産まれたじゃない。家族であたふたしてたから、スキーどころじゃなかったんだよ。もうおじぃなんか構いたくってしょうがないし」

 ナギが嬉々としたワクワク感半端なく言ってきた。その隣に居たタキの同級生のテンマと、一つ下の妹もやるぅ~と、騒いでいる。

「やった。遊びは人数は多いほど楽しいもんね。午後が楽しみだな」

 それを聞いて、テンマは嬉しそうにオッシャーと片腕を上下に振って騒いでいた。妹はジャンプしながら喜んでいる。この兄妹は揃いも揃って動きがうるさい事と、4人はうなずきながら同じことを考えていた。

「それよりソリーやるのも何年ぶりだよね?」

 テリーは、嬉々として喜んでいた。

「そういえばお前、昔はソリー好きだったものな、ソリーの事になると目の輝きが違うよ」

 テリーは『うっ』と、きたがニヤリと笑って…。

「タキだって、人のこと言えるの?去年遠くのスキー場に行く予定だったのに、吹雪が酷くって、家族スキーが中止になった時だって、一日中膨れていたのはタキじゃないか、久々にソリーもやりたかったのにぃ〜って」

「そうなのか!タキって意外とお子ちゃまだな」

「意外な一面はっけ~ん」

 ナギとクリスがからかってきた。

 先に並んでいた低学年の女子達とその付き添いで来ていた母親達もが、その話の流れを聞いていて、クスクスと小さい声で笑っている。タキの頬が紅潮して、テリーを睨み見つけた。

「わ、悪かったな、だって2週間前からスっごく楽しみにしてたんだもん。そんなこと言ったら、来週から起こしてやらないよ」

「わぁーー!〜御免なさ〜い。起こしてもらわないと、起きれない」

 そんなたわいのない話を笑いながらしていると、スクールバスが定刻通りにやってきた。



 その頃、グラン家すなわちクリスの家では、毎朝恒例の親子喧嘩が始まっていた。

「クソババーーー!俺の物に触るなって、あれほど言ったのに、何で触るんだよ。此処に置いてあった参考書知らねぇ?あれダチから借りた本なのによ」

 イライラしながら、参考書を探している所へ、ダリエアが現れて声をかけてきた。

「参考書ってこれの事かしら、私てっきりモルトンの物かと思って、書斎に戻しておいたの」

 一冊の分厚い本を持ってきた。

 アスラはそれを聞いて、苦笑いをした。

「モルトンの物……か……」

 クスクスと、意味ありの笑いを洩らした。ダリエアの手から、本を奪い取ると睨みつけざまに、低い声で一言、言い放った。

「これからは一切、俺のに手を出すな」

 車のキーを壁から外すと、そのまま学校へと行く為に出ていった。

 後に残されたダリエアは、途方に暮れてしまい暫くその場に立ち尽くしていた。



 教室の窓際の席に座り、やっと顔を出した太陽の光に照らされ、雪に覆われた銀世界の並木道を眺めていた時、不意に声をかけられた。

「アスラ今日もやけに、機嫌が悪い顔じゃねぇ〜か、今朝もお袋さんと喧嘩か?学校もギリギリだったしな」

 茶々を入れに来たこいつ、アスラの小学校からのダチだが、数居る友人の中では一番軽い性格を持った奴だ。ついでに女癖が悪い。

「うるせ〜な。いま考え事してるんだ。お前が来ると混乱する失せな。それに後ろ向いてるのに、なんで顔色なんか分かるんだよ。アホが」

 アスラは冗談交じりに、今にもぶん殴るぞと、いう体制になる。

「おっと危ねぇ危ねぇ。アスラに殴られたら、速病院行きだぜ、アスラのパンチは凶器並だからな、俺まだ死にたくねぇ〜もん」

「何が凶器並だよ、大袈裟すぎ。それが本当だったら、何度あのにくったらしいあの野郎を何度入院送りにできただろうな」

「彼奴は人間じゃないっすよ。アスラの拳くらって、入院してないの彼奴だけだよ」

 まだうるさく騒いでいるこいつニダルに苛立ち、アスラは用件があるんだったら、早く言えと目で訴える。

「分かったよ殴るなよ。アスラもせっかちだな〜あのな、、今日せんこー達ノルウェー全体の教育研修日で、滅多にない午前授業だろう!明日は休みだし、年一回の楽しみということで、早い時間から廃墟パーティーして騒ぐんだけどさ。でさアスラも来ない?今、みんなに声をかけてるんだ。それ言ったら、アベルとリアムとルンが、今集めた連中なんだ。他にも誘うつもりなんだけどさ。どう?」

「そっか、あいつらも行くのか、なら俺も少しだけ行こうかな」

 アスラはYESの返事を出した。

「そうこなきゃ♡じゃ後で場所とか時間はFacebookするから」

 ニダルは、次を誘うためスマホ片手に走り去って行った。

『元気な奴だな、そういえばみんなで集まって飲むのも、久々だよな…………楽しみだ』

 椅子に座りながら、伸び―と背筋を伸ばすと、眠そうにあくびを一つした。

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