第4話 墓穴を掘った!
「ただいま」
返事がない…暖は24時間着けっ放しだから部屋の中は暖かいが、廊下も居間も明かりが無く、あれ?ママは居ないのかなと思いホッとしてしまった。遅くなったのママにバレずに済みそうだったからだ。その内二階から扉の開く音がして、再び廊下に出てみると、ハァハァ言いながら、嬉しそうに愛犬が走り寄ってきた。その背中には、寒いのか何時もの定位置でへばり付いている愛猫のレダもいた。
「ただいま~ルダ♡レダ~♡」
「ワンワン」
「みゃぁー」
フカフカの毛並みのルダの首に抱き付くと、顔中を舐められる。その後自室の入り口で、何やら騒いでいる声が聞こえてきた。
『あいつめ人の気も知らないで元気な奴』
部屋からゆっくり歩いてくる弟を階下で、尻尾を振っているルダとお座りした時に背中からずり落ちたレダで待っていると、数ヶ月前事故で骨折した左腕がまだ痛々しく、石膏で固められた腕を首から吊るされている姿が現れ、下を気にしながら、階段から降りてくる。
「ママ〜!お腹空いた!早く夕飯作っ…て…あ…れ?何だタキかママかと思っちゃた」
『この野郎。何だはないだろ何だは、ママじゃなくって悪かったな。少し心配して損した…』
「でも良かったね。ママがいたら雷が落ちてたよ。門限も10分過ぎてるし、雪も降り出してるしさ、お腹減った〜ねぇタキ。何か作ってよ」
「…良いけど。ママはまだクリスの所から帰ってこないの?」
ダウンジャケットを脱ぎながら、キッチンに向かう。その後ろを付いてくるテリーに話しかける。
「そう!3時間以上は行ってると思う。僕が帰ってきた時には、メモ書き一枚置いて既にいなかったし、明日は研修で、その為に今日の仕事も半休貰って家で書類手掛けてから、ダリママの所に飲みに行くとは聞いていたけど、まさかこの時間まで帰ってこないとは」
そのかなり分厚い書類も、封筒に入れられて、忘れないように玄関前の棚に置いてあった。
クリスとは家族ぐるみで、親戚付合いしているほど親しい仲だ。同じ年で、僕と同じクラスの一番仲のいい友達だ。
『マジ。僕としては助かったよ。飲みに行くと聞いてたから、少しくらいは遅くなるだろうと思っていたからシュトラスと会ったけど、まぁこっちもちょっと予定がずれて、遅くなったのはいうまでもない。本当に危なかった』
「それなら電話するなり、迎えに行けばいいのに」
冷蔵庫の中を確認したが、材料が無い。あれ?今日仕事帰りに、買い出しに行くとか言ってなかったかなっと、思いつつ棚の中も確認する。
「したよ電話2回に、呼びに行ったの1回そして現在に至る」
『あ…そう。なんと神経のぶっ太い母親だろう。お前も苦労したんだな…』
苦笑いをしてしまうほどだ。
「だったらさテリーも、クリスと遊んでれば良かったじゃん」
棚の中の物を確認していると、何とか玉ねぎにマカロニとホワイトソースは見つかった。
「冷蔵庫にチーズもあって良かった。グラタンで良い?」
「うん。タキの作るグラタン好き~」
「知ってる。テリーの好物だものな」
商品を机の上に置くと、今度は鍋を取り出し、水を入れ始めた。
「それに今日は木曜日だよ。クリスはバイオリンの習い事の日でしょ。学校が終ってから、そのままアス
墓穴を掘った!クリスとテリーがお互い頑張っていた時、僕はホテルで~~なんて、絶対言えないよ~先程の情事とシュトラスの告白が脳裏に浮かんだ途端に、顔に出てしまったようで、テリーに怪訝な顔で見られていることに気が付いた。
「タキ…顔赤いよ?本当に何?僕に隠し事してない?」
まずい。こう見えてテリーは勘が鋭い。それも僕に対してのみ超人並だ。ここはなんとしても誤魔化さないとと思っていると、タイミングよく電話の音が鳴った。タキは安堵の溜息を付きながら、テーブルの上に置いてある子機を取り、ディスプレイに表示された番号を見ると、そのクリスの家からだった。
「ママ?いつ帰ってく…る」
受話器の向こうから予想が外れ、笑っている子供の声だった。この声は……。
「クリスか?まだママそっちにいる?早く帰って来いって言ってよ」
受話器の向こうでは、まだクリスが笑いながら何やら要件を言っている……。
《そう言う事だから……》
「分かった。1時間以内に行くよ」
タキは申し訳なさそうに子機を置いた。テリーが心配そうにタキの側へ来て、顔を覗き込む。
「あのな、ママが今日の買い物するの忘れて夕飯作れないって言ったら、ダリママが、今日はパパも帰り遅いし、食事は3人より沢山いた方が美味しいから家で食べていって……だって」
「……………………………………💦」
沈黙のあと二人は、力なくガックンと肩を落とした。
「あれでも2児の母か……」
「時間も忘れて飲んだくれてるから……まったく」
二人はそれぞれ違うことを呟いていた。
外に出ると、今さっきまで小ぶりだった雪も、本格的なボタン雪に加え風も吹いてきていた。帰りは一体どうなってるんだろうなと思いながらも、厚く垂れ籠める雲を見上げながら、一人思案させていた。
『いい加減おじぃにも申し訳ないよな。子供が小学校に通っている家族で協力して、順番に指定のバス停まで迎えに来てもらってるのに、たまたまシュトラスと会う曜日が月木なんだよな。火曜日水曜日はクリスのママなので、シュトラスに会いたいと言われてるけど、絶対何があっても拒否るが…もうどうすればいいの?今日はなんか疲れた』
ため息が出てきそうだ。
「こんばんは」
「お邪魔しま〜す」
「いらっしゃい近いとはいえ、こんな雪の中くるの大変だったでしょう。こっちの暖かい部屋へいらっしゃい。クリスが居るから遊んでて、もうすぐ夕飯出来るから」
「「はい。今日はどうも御馳走になります」」
二人の声が綺麗にはもった。流石だわねと、クリスの母ダリエアはそう思った。
その後ろからヒョッコと問題のぶっ太い神経を持った母が現れた。
「いや〜タキにテリーごめんね。つい話が盛り上がっちゃって、時間なんて忘れてたわ。はは…は」
『そんな陽気に笑われたんじゃ、何か言う気力も失せる。それにかなり酒も入っているようだ。こりゃダメだ』
「ママ今度からは、気を付けてよね。何の為にお仕事半休取ってきたんだか」
「はいは〜い。明日の研修の為でーす。しっかりした息子達で良かったわ」
「……もしかして、少しでもお酒を飲む時間を多く取るために、買い物忘れたふりをして買ってこなかったとか言わないよね。冷蔵庫何もなかったよ」
「はい!その通りです。都合よく忘れてきました!」
「「やっぱりかい!」」
呆れて何も言えなくなった二人である。
「全く……ダリママそれとこれ、丁度作る時に電話貰って、マカロニグラタン作ってきた。今日の一品に加えて」
保温バックに入れてきたグラタンを、ダリママに渡す。
「有難う。タキの作ってくれた料理何作っても美味しいから、おばさん負けてられないわね」
そこへクリスが部屋から出てきた。
「タキ、テリーこっちこっち早く来いよ」
「うん!今行く」
部屋の中に入ると、アスラとクリスがテレビを見ていた。
「「今晩は。アス
「オス。外は寒かっただろう。此処に座れ……あれ…タキ?…」
アスラは暖炉の前で、寝転んでテレビを観ていたが、人の顔を見るなり、立ち上がると、スタスタとタキに近づいてきて、タキの視線に合わせるようにしゃがんでくると、間近でマジマジと見つめてきた。
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