第23話 ※考察はこのEPまでです
「そう、もう知っているのね。私がお
「そうですよね知りませんよね! じゃあ――え?」
否定されると思って、次の質問を考えていた
そうして固まる後輩を置き去りに、立ち上がった
「卑怯なことをしたわ、ごめんなさい」
毛先がカールしたミディアムの明るい髪を揺らして、深々と頭を下げたのだった。
「……先輩が、私を? どうしてですか?」
「理由は、そうね。ムカついたからかしら?」
垂れた目元から優しそうな印象を受けたが、岸間が語る言葉の内容はシンプルで苛烈なもの。
文武両道で、負けず嫌い。
「ムカついた……」
「そう。イライラした。怒った、憤慨したとも言えるわ」
もう一度、ベンチに座り直した岸間は、
小さいパックのいちごミルクで喉を潤して、
「あなたに恋人が居ると聞いたの」
そう言って、緋能登の方をちらりと見た。
誤解をしている様子の岸間に一から説明しようとした緋能登は、
「それは根も葉もない噂です」
「……でしょうね」
あっさり受け入れられたことに拍子抜けする。
「最初はあなたを困らせるつもりは無かったの」
本当よ? と言った岸間に頷いて見せる緋能登。
「でも、受験勉強のストレス、とか。霧島君に振られたショックとか。あなたに魅力で負けたのか、とか思ってた時に、そんな噂を聞いたものだから、振った理由――トラウマが、嘘なんじゃないかって」
いくらオカルトを信じていたとしても、本当に効果があるとは思っていなかった。
だからこそやってみようと思えた、ある種の自慰行為。
「あなたのせいで霧島君と別れることになった。一応、理由らしい理由もあるでしょ? ネットカフェまで使って泊りがけでね。挙句、途中で失敗して、少し困った事態になっているんだけど」
「失敗……呪おうとしてるところを、見られたんですね?」
「そう。よく知ってるわね。……ひょっとして、あなたが――」
「……?」
岸間は、緋能登が白服を着ていたアレ――今、呪いの失敗を帳消しにしようと自分を追い、殺そうとしているだろう人物ではないかと考えた。
であれば、自分がしようとしていた呪いについてすでに彼女が知っていた事にも説明がつく。
でも、緋能登さんとあの白服とは、どうしても結びつかないわね……。
そうして1人、考え事をする岸間を
手早くメッセージアプリで琴無に犯人を伝えながら、岸間にもそのことを伝える。
「安心してください、先輩! 私の友達が、その“困りごと”を解決してくれるはずです!」
「ありがたいけど、緋能登さん。私のこの問題は一般人にどうこうできるものではないの」
「わかってます。見られたせいで、呪いが返ってきたんですよね?」
返って来たという表現に引っかかりを覚えつつもおおよそ同意の意味で頷く岸間。
「友達の話だと、今日中に呪いが効力を発揮するそうです。なので今日だけは、真っ直ぐ家に帰ってください」
「私なら大丈夫よ。それに、予備校だって――」
「い、い、で、す、か? 私への謝罪の証、見せてください! ……今日だけです、お願いします!」
「……わかったわ」
「絶対ですよ?!」
食い下がろうとした岸間を、罪悪感という罰をもって制した緋能登。
強情な先輩が頷いたことをしっかり確認して、脇に置いていた弁当を膝上へ移動させる。
岸間は岸間で、食べ終わったパッケージを丁寧に折り畳み、袋にしまった。
「これで、一件落着。本当に、良かったです!」
「良くは無いでしょう? あなただけが嫌な思いをしただけじゃない。人が良すぎよ」
悪い男に騙されないか心配だわ。
そう付け加えた岸間を見やりながら、口に運んだ甘い卵焼きを運んだ緋能登。
それを飲み込んで、後回しにさせてもらっていた要件を聞く。
「次は先輩の番ですね。私に話って何ですか?」
岸間を呼び出した時、彼女は緋能登に『話がある』とメッセージを送っていた。
「1つはさっき言ったように、お
その発言を今や、岸間らしいと緋能登は感じるようになっていた。
「その言い方だと、他にもあるんですか?」
「そうね。霧島君について、聞きたかったの。彼、最近、不調だって聞いたから……」
元カノとしての心配なのか、いち友人としての心配なのか。
彼女が自分に呪いをかけようとしたことから、前者である可能性が高いと緋能登は考える。
「確かに記録は伸びていないと聞きましたけど……。先輩が直接聞いてみるのはどうですか?」
最初は少し気まずいだろうが、逃げてばかりではその空気感は変わらない。
緋能登は霧島が自分にそうしてくれているように、自ら歩み寄ることでしか現状は変わらないと思っていた。
誰だって、気まずい関係は嫌だろうと思い込んだ彼女の言葉に、しかし、岸間は首を振る。
「それだと、まだ私が彼に未練があるみたいじゃないっ!」
「……はあ」
もう、その発言が答えになっているだろうと、緋能登は間の抜けた相槌を返すことしかできない。
そこで、ふと。
卵焼きの糖分が頭に回ったというわけでは無いだろうが、
「あの、すみません、先輩」
「どうしたの?」
「霧島先輩に呪いについて相談しましたよね?」
それはある意味で、緋能登が一番最初に聞くべき質問だったのかもしれない。
以前、今朝ではなく昨日。
緋能登が
『……俺の周りにお前を呪うって言ってた奴がいたんだ。それも、俺のせいで』
そう言っていた。
あの時も今も。緋能登は彼が示した人物が岸間だと思っている。
しかし、こうして知った岸間のプライドの高さを考慮に入れた時。
「いいえ。別れてから、彼とは1度も話していないわ。メッセージのやり取りすらないわね」
案の定、そんな答えが返って来た。
そして、それは、間違いなく本当の事だと緋能登には感じられた。
やっぱり……。
当初の予想に、最期のピースが揃ってしまう。
目を伏せた彼女は、そっとスマホに指を走らせた。
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