第45話 さようなら ②

 炎、氷、雷、土ーー。

 それらが空中を激しく舞う。

 まさに辺りは乱闘と化し、宮殿内の建物や木々はひどく損傷して、瓦礫の山が至るところに積み上げられていた。

 地獄絵図。それにつきる。

 そんな光景を目の当たりにして、アイリスが平気なわけがない。アイリスは自責の念から、そのブルーサファイアの瞳から透明な雫を溢した。

 その瞬間だった。


『ギィギギギギー!!』


 空をつんざくような鳴き声が響き渡った後、4体のドラゴンが姿を表した。

 

「なぜドラゴンが?」

「竜人王の貴様がいうのか!?」


 不思議そうに空を見上げる竜人王に、すかさず人間王がツッコむ。

 数秒後、空を旋回したドラゴンたちのうち、比較的小柄な一体がアイリスに向かって飛んでいった。


「しまった!」


 サラの焦り声が響き渡る。

 誰も反応できないうちに、ドラゴンはアイリスを咥えると、再び空へと舞い上がっていった。


「キドラ!」


 すかさずサラが叫ぶ。

 だが、キドラがアイリスを追うより早く、金髪の吸血鬼がキドラの前に降り立った。


「お久しぶりデース」

「おまえ……フェイクだったんだな。紛らわしいやつだ」

「ノンノン! ワタシ、魔王様と同じ吸血鬼ってだけ! 勝手に勘違いしたのユー!」

「シーク! おまえが金髪の吸血鬼が元第二皇子て言ったからだぞ!」


 後ろで対魔物戦に当たっていたシークが、対戦相手を殴り飛ばし、すかさずキドラの方へ振り向く。


「なになに? 誰そいつ」

「ハジメマシテ! ワタシは、魔王さまに、『あたかもシークになにか因縁がある風に機械人間に会ってこい』と言われてそれを実行しました者デス!」

「え? なんて? 10文字以内でまとめてくんない?」

「あ、噂通りのアホデス!」


 吸血鬼はそう言って、円状の数式を展開する。そして、キドラに問いかけた。


「これが何か分かりマスカ?」

「魔法ではない……テクノロジーか」

「ハイ。魔法の仕組みを解き明かしマシテネ。今では、召喚や異空間転移の高等魔法すら、テクノロジーの解明済みデース」


 吸血鬼が意味深に笑う。

 とたんに、姉妹で因縁のピンク髪男をやっつけていたミナとサラが空中を見て叫んだ。

 つられて、他の者も空中を見上げる。

 そこでは、光を放つ円状の数式が、抱き合ったアイリスとサタンを包み込んでいた。それを四体のドラゴンが空中の離れたところで見守っている。

 次の瞬間、光に包まれたアイリスとサタンがその光と共に空中で消えた。

 唖然とする周囲に、発狂する人間王。当たりがさらに混乱に包まれたときだ。


『大変にゃー!』


 慌ててロキとジェルキドが飛んできた。その手にはタブレットが握られている。


『アイリスがメッセージを残していたにゃ! て、なんにゃ、この地獄絵図!』


 ロキが現状を見て、瞳孔を縮小せた。

 すかさず、金髪の吸血鬼が魔王軍たちに向かって声を張り上げた。


「魔王さまはこの世界からいなくなられたデス! よって撤退シマス!」


 とたんに魔王軍の面々がざわざわと騒がしくなる。それを叱咤するように、再び吸血鬼が叫んだ。


「我々は魔王様に救われた者たちの集まりデス! 魔王様の望みが叶ったのだからメソメソしない! 帰りマスヨ!」


 そう言って、吸血鬼が空高くへ飛び上がると、たちまち数式に身を包まれ姿を消す。それに続いて他の面々も身を引き返していった。


「なっ! まて!」


 キドラの声は、敵に届くことはなかった。





           ◇





『このビデオが再生されているということは、私は皆さんを深く傷つけてしまったのですね。どうか私を許さないでください。私のために戦ってくれた皆さんには本当に感謝しています。でも、正直私は、どちらにつくとか、そんなことはどうでもいいのです。私はただ、愛するサタンさんと一緒に過ごしたい。ですが、私がアルカシラに存在する以上、争いは起こることでしょう。ですから、私はサタンさんと違う世界に行くことにしました。どうか、私を忘れて探さないでください。キドラさん、シークさん、サラさん、ミナさん、レオさん、ロキさん、ジェルキド先生、人間王さま、今までありがとうございました。さようなら』


 それがアイリスの残したビデオレターだった。

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