第31話 進化 or 維持 ②

 ミナの姿が炎の向こうに消えたとき、レオの元にシークが慌てたように走ってきた。


「何があったの?? キドラがロキからSOSを受け取ったみたいだけどぉ~」

「ミナが! 危ないっス! ミナが! 炎っ! え! なんで、シークさん!? キドラさんはっ?」

「どういうこと?」


 じとっとした目でシークが再び尋ねるが、レオはすっかり取り乱しているようだった。人は混乱したときに本音が出るものだ。キドラではなくシークが来たことに、レオは動揺を隠せなかった。


「俺も役立つボーイなんだけどなぁ? なんなら、ドラゴンの世話で忙しいからって、俺をパシらせたキドラより仲間想いっしょ! で? 状況は?」

「ミナが! 中に! くそっ、なんで、シークさん……っ」

「………」

『ドラゴンの放った炎で建物が燃え、1匹の獣を除いて住民の避難は完了。逃げ遅れたたぬきを助けにミナが向かった。というわけにゃ』


 レオに代わってロキが冷静に状況を説明したとき、辺りが悲鳴に包まれた。群衆の視線を辿れば、建物の四階の窓にたぬきを抱いたミナが足をかけていた。レオの顔から血の気が引いていく。


「まさかあそこから飛び下りる気っスか!?」

「魔法具がないと浮遊魔法は使えないからたぶんそう!」


 そう言うやいなや、シークはミナが飛び降りようとしているちょうど下に向かって走りよっていった。


「ミナ! 俺が受け止めるかr「邪魔あああああ!!」え」


 ミナを受け止めようとシークが駆け寄った瞬間、ミナが4階から飛び降りた。


「じゃままままま!! どけやあああ!」 

「へ?」


 ぽかーんと立ち尽くすシークの髪をロキが引っぱる。シークの髪がパラパラとその場に散ると同時にミナがきれいに地面に着地した。


「ひとぉぉぉつ! 猫は! 俊敏に動ける! ふたぁぁぁぁつ! 猫は高いところからきれいに着地できる! 猫を! 猫獣人をなめるんじゃないわよ!」


 ミナが叫ぶ。たちまち、回りから大きな拍手が沸き上がった。こだぬきの母親がやってきて何度もミナに頭を下げて礼を言う。


「猫って高いところから落ちても大事なの? あ、キドラに調べろて言われる! えーと……猫は三半規管が落下までの距離を計算し、体を捻って足から着地できる……へぇ~……ん? 待って、限界の高さは2階てあるよ?」

「猫と人のハイブリットが私よ? 猫の特徴を人間の体に適応させるときに本来の猫より格段にレベルアップしているのよ。どう? 猫獣人てすごいでしょ?」

「心配したっス……」  

「キドラにばかりいいところやれないから頑張ったわよ!」

『ご主人の体は金属にゃ。金属は熱を伝えやすいにゃ。もしご主人がこだぬき抱いたら丸焦げになっていたにゃ』

「あら! 最強テクノロジーにそんなデメリットがあったの?」

「へぇ。以外な発見だったよぉ。キドラのボディ。あ! てことはキドラの体ってフライパンと一緒だよね! 焼き肉とかできるのかな?? なんかの芸でさ、体で焼き肉しますってやったらウケない?」


 ケラケラと笑い出したシークの発言に、ミナとレオは完全に引いていた。人の体で調理をする発想はもはや、人間の常識を凌駕している。


「私、やっぱりこのままでいい気がしてきたわ……」


 ミナが苦笑いをしてそう口をこぼした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る