第25話 愛と執着 ④
ベルドが話し終わると、感心した団員たちから、拍手喝采が響き渡っていた。
「団長~おめでとうございます!」
「まさかAIだとか、まさか団長が1晩で交際を申し込むとか……いろいろイレギュラーすぎて……とりあえずおめでとうございます!」
「てか、ストーカーとか言ってくださいよ! あ、言わなかったからアイさんと出会いがあったのか。なら、結果オーライっすね!」
ワイワイと騒ぎだすメンバーの横で、マルクスは恥ずかしそうに「恋なんて……」と顔を赤らめている。トルドーも眠たげな目をいつにもなく輝かせているし、ガリメロにいたっては興味無さげに見えて耳だけは話に集中しているようだ。
そんな彼らを観察しながら、キドラが不可解そうに顔をしかめたときーー
「おまえら! たるんでるんじゃない!!」
サラの叱責が響き渡った。
だが、早くもベルドは問題を抱えていた。アイがどこにでも着いてくるようになったのである。
合同訓練4日目、アイは訓練に着いてきた。最初こそ、アイの美しさにハイテンション気味だった団員たちも、ベルドにぴたっとくっついたアイのせいでベルドが訓練に参加できずにいると、さすがに苦言を漏らさずにはいられなかった。
「アイさん、団長からちょっと離れてやってくれませんかねぇ」
「だめ。恋人の邪魔しないで」
「今は恋人タイムというか訓練中っすよね? 団長困ってますから」
「ベルド。離れたくない」
ベルドも引き離そうとしながらも、なかなか扱い方に迷っているようだ。見かねて、サラがアイリスにアイの話し相手になるようお願いした。
アイリスは快く承諾したのだがーー
「アイさん、私とお話しましょう」
「助かる! アイリス!」
「アイさん、ベルドさんのこと話しましょう?」
「さあ、アイ、アイリスのところへ行け」
ベルドを名前で呼ぶアイリスとアイリスに笑顔でお礼を言うベルドに、アイは間違った解釈をしたようだ。
「アイリス、ベルドを名前で呼んだ。ベルド、アイリスに笑いかけた。二人は恋仲?」
「ち、違いますよ~」
「アイリスどもった。嘘」
「え! 驚いただけですよ?」
「アイリス、敵」
どうやらアイリスを敵だと認定してしまったようである。
「アイリスがうまくいかないなんてレアっスね~」
「アイリスも人間てことね」
「もしやアイリスの力は自分には使えないか、機械には通用しない説! 新たな発見だね~」
レオたちはレオたちであまり気にせずアイを観察していた。
◇
だが、アイのアイリスへの横柄な態度は一向に解消されることはなかった。さすがに、アイの敵意を問題に思ったベルドは研究所に相談に向かっていた。
『うーむ。そのAIは間違った学習をしているみたいにゃね』
「間違った学習?」
『AIの学習はプログラムした人の思考が現れることがあるにゃ。あるいはAIは学習するために膨大なデータがいるんにゃが、学習に使うデータに偏りがあったのかもしれないにゃ。例えば、恋愛のデータを学ばせるときに、データにライバルどろどろ関係の恋愛物がたくさんあったとか』
アイの不可解な言動の原因を推測するロキを見て、ベルドがふと感想を漏らす。
「アイは随分ロキ殿と違うんだな」
『ミィーは科学技術最先端時代の最新高機能搭載型AIにゃ! 学習量は通常のAIの1200倍にゃ! 駆け出しの新米と一緒にするにゃ! 失礼にゃ!』
そう言って、ロキがパンチをベルドに食らわせた。
「す、すまない!! ………!」
『にゃににゃ?』
「いや……肉球……猫の再現度高いんだな」
『当たり前にゃ! だてに猫型名乗っていないにゃ!』
◇
それでも、ベルドはアイと過ごすうちにアイに愛着が湧いていっていった。むちゃくちゃな言動もするが、基本的にアイは思いやりがあることをベルドは知っていた。訓練には相変わらず着いてくるが、前みたいにベルドにベッタリではない。それどころか、訓練中に負傷した者がいれば、自身に備え着いた機能を使い患部を冷やしたり、必要な処置を調べたりしていた。
ベルドはアイを着実に好きになっていたが、困ったこともある。相変わらず、アイリスへの学習は修正されないのだ。ついには、今度はアイリスに纏わりつくようになっていた。
ある日、訓練中ベルドが何気にアイリスの方を見れば、アイがアイリスの膝に片足を乗り上げていた。
「アイ! 何やってる!」
サラがすかさずアイを注意する。アイリスに敵意を持たせないよう基本的にサラに注意してもらっていたベルドも、アイがアイリスにプロレス技をかけはじめたときは声を張り上げていた。
「アイ! やめろ!」
「ベルド、喜ぶかと思った。ベルドアイリスすき。技すき」
「アイ! それはいろいろ間違っている! とにかくアイリスにひどいことするな!」
ベルドが言えば、その時は、アイは頷いた、
しかしーー。
アイはそれからも形を変えてはなんどもアイリスの回りをつけまわしたのである。
「捕まえるな!」
あるときはアイリスを捕まえようとして、すかさずベルドが叱る。
「物をなげるな!」
またあるときはアイリスに物をなげつけ、一応キドラが受け止めはするものの、ベルドは強くアイを叱りつけた。
「睨み付けるな! 変顔よこすな!」
そしてあるときは変顔をして睨み付けながらアイリスの横を通りすぎた。これにもベルドは当然怒った。
あることを禁じられたらまた別のあることを仕掛ける。完全にいたちごっこだった。とうとうベルドはアイの言動を根っこから制限することにした。
「アイ、もうはっきり言おう! アイリスを……いや、誰かを付け回すのはやめろ! 金輪際やめろ!」
「ベルドわかった」
「分かってくれたか!!」
「もう『付け回す』ことはしない。」
「………ん?」
首をかしげるベルドの代わりに、レオがアイに尋ねた。
「追いかけ回すのは? どうッスか?」
「追いかけ回すと付け回すは厳密には違う。意味を調べようか?」
そういってのけたアイに、ベルドはあんぐりと口を開けて固まってしまった。だが、すぐに気を取り直して、アイに詰め寄る。
「アイ! なんでそうなる? アイリスは大事な仲間だ。なぜ困らせることをするんだ!」
「ベルドはアイの。アイはベルドの。だから、邪魔なやつは『排除』する」
「排除」という言葉が口にされた瞬間、ベルドの体温がすっと冷めていった。その顔にはいつもの陽気な表情はない。あまりの変わりように、アイを除く他の面々がベルドを注視していた。それに構わずベルドがアイの肩にぐっと手を置いた。
「アイ。取り消せ」
「なぜ」
「アイリスは仲間だろ!!」
「仲間と恋敵を比較したとき、値は後者が勝った」
「いい加減にしろ! アイリスは仲間だろう! アイはもちろん好きだ! だが!アイリスは別に『仲間』なんだ! 仲間を『敵』だなんて言うな!」
「ベルド……」
「お願いだから、アイリスやおまえを苦しめる言動はするな! 自分を悪く染めていくな! もっと、俺とおまえの幸せを考えてくれ……お願いだから!」
必死にアイに訴えるベルドの顔は涙で歪んでいた。
「アイ……失敗した。ごめんなさい」
「本当に分かってくれたのか……?」
「アイリスに迷惑かけた……それはダメなこと。ダメなことしたら謝る……アイリスごめんなさい」
アイがアイリスの方を向いて頭を下げた。
「はい。分かりました。ありがとう」
アイリスがアイに手を差しのべれば、アイが「これは握手」と言って握り返した。
「握力間違ってない? アイ、また間違い犯してない?」
アイの不安そうな声に、「ちょうどいいですよ!」とアイリスが笑って答えた。
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