第14話 テクノロジーの指導 ②
結論、キドラの指導はめちゃくちゃだった。
◇
「まず、スピードだ。敵より素早く動き、問題を素早く処理するのは基礎中の基礎だ。それでは、今から計測する。AIBTより早く訓練所を一周しろ!」
「は、はいはい~エーアイビーチーてなんですか?」
シークが手を上げて質問する。他の面々もうんうんと頷いた。
「AIBTはテクノロジー搭載の新幹線だ。……新幹線が何かとは言わないだろうな?…………そうか、言うのか」
新幹線のところで【疑問】を読み取ったキドラが、ため息をついた。
「やはり百聞は一見にしかず。実際のAIBTの速度を見せよう」
そう言うやいなや、キドラが腕をまっすぐ伸ばした。
「最低速度の660km/hでいく。……発射」
すると、キドラの腕から手首が外れ、ものすごいスピードで訓練所を一周した。
わずか0·01060秒後。
パシッ、と音がして手首が再びキドラの腕につながれた。
「これより早く走れ」
キドラが軽く言ってのけたときだった。
「いやいやいやいやいやいやいやいや。まって。今、え? キドラの腕から1回手首が離れたよね? あれ? 錯覚? 早すぎて何が起こったのかわからなぁい!」
「お姉ちゃん、なんか私酔ってきた。気分……悪いわ」
「ミナ、私もだ」
「俺もっス」
「私、瞬きしてしまって見逃しちゃいました! 何があったんですか?」
一同が全力で否定した。
「追いかけられると人は能力以上に早く走れるらしい。俺が腕をおまえらの後ろから発射するからパンチされないよう走りきれ」
「いや、それ新たな拷問!?」
シークがすかさずツッコミを入れる。
「?」
だが、キドラは不思議そうに首をかしげていた。
「不思議ちゃんが不思議そうにしないでっ!」
シークがまたもやツッコむ。
「だが………AIBTより早く走れないと犯罪は止められない。」
真面目に言ってのけるキドラにメンバーが完全に言葉を失っている中、サラが興味深げに口を開いた。
「うむ。さすがに今のスピードは無理だが……。追いかけられるというのは訓練に良さそうだ。取り入れよう。おい、AIBTより100倍くらい遅いやつはあるか?」
「AIBTより遅い……そうだな。AIACだろうか。」
そう言ってキドラが思い浮かべたのはAI of Automatic Carだった。新幹線より速度は劣るが、そうでもいいのだろうか、とキドラが困惑気味にその名を口にした。
実際に速度を体感したいというサラに、キドラは再び腕を発射させた。
1秒も満たずに腕が帰ってくる。
「………まぁ、うん。まあ、我々も頑張れば…めちゃくちゃはちゃめちゃどちゃくそ頑張れば、出せんこともない。おい、シーク、追いかけられろ」
「………えええええええええ!? 正気?」
「正気だ」
「なおダメだよ~! 俺は恋愛でも追いかけたい派だし物理的なのも追いかけたい派なの~! 物理的な追いかけっこはしたことないけどね~」
シークが無理でしょ、と笑った。
だが、
「やれ。」
無惨にもサラの強制命令が発動された。
結果ー。
「よーいスタート!」
「うっしゃぁぁああああ!【ゴンッ】いったああああああ!」
シークが気合いを入れて走り出したと同時に、その背中にキドラの拳がクリティカルヒットした。
「わかってたわかってたよね、こうなるってぇえ!」
地面に突っ伏したまま、シークが恨めしげに言った。
結果、追いかけっこは取り止めとなった。
「他にはあるか?」
懲りず、サラが問う。それにキドラは再び頷いた。
「ああ。暴走したAIBTを止めるには重い物体を受け止められなければならない」
「おそらくAIBTは我々の手にはおえん。却下だ」
「なら……暴走した犯罪者と戦うには武術が必要になる」
「それだ! それ! そういうの!」
サラが興奮したように何度も頷いた。サラは歓喜したのだ。やっと自分たちの手におえる訓練ができると。
「テクノロジー犯罪は、爆破の割合が圧倒的に多い。火災や電圧テロも少なくはないがな。というわけで、爆破に耐え、爆破に立ち向かえ」
「爆破に耐える?……立ち向かう? 逃げるじゃなくてか?」
「ああ。そのまま爆発を受け止めたら体がバラバラになるだろう。だから体の部位を入れ換えたり強度を練ったりして耐えるんだ。無理そうなら地面下に逃げろ。速攻で掘ってな」
「……やっぱり却下で」
サラがすぐに却下を言い渡した。
もはや、キドラが異次元を行きすぎて、レベルが合わなくなっていった。一同諦めムードである。
「もうテクノロジー最強じゃん。俺の炎とか足元にも及ばないよねぇ」
結果、キドラによる指導は始まる前に終わりを告げたのだった。
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