第8話 メンバー変更できないか…?①

 改めてキドラたちは、王宮の一室に集められ、アイリス護衛パーティーのメンバーの顔合わせが行われていた。

 最初に自己紹介したのは、シークだった。


「知っての通り、シークだよ! 魔法属性は炎やってます!」

「チェンジだ。『チェンジにゃ。』」

「いやいやいや! よろしくって!」


 無理やりキドラの手を取って握手をするシークの手を、キドラがすかさず叩き落とす。こんな一方通行の握手があってはたまらない、というのがキドラの言い分だ。

 続いて口を開いたのは、緑髪の小柄な少年だった。耳の形からしてエルフだろう。


「俺は、レオタルド・フォースっす。レオって呼ぶッスよ。一応、情報屋をしてるんスけど、さっそくインターネットを活用させてもらってるッスよ。一応……メリビスの従兄弟ッス」

「あー! 確かに似ているねぇ! 目元とか! あ、でもメリビスがモデル体型だったのにそこは似なかったんだねぇ! ど・ん・ま・い!」

「うざっ」


 シークがまじまじとレオの顔を覗き込む。レオが迷惑そうに顔を背けるのを、キドラは気の毒そうに眺めていた。

 そして、次に名乗り出たのは、赤髪を横二つに結んだ少女で、頭に猫の耳が生えていた。獣人というやつだろう。それも猫型のようだ。


「ふん! ミナ・クロード! 魔王側には魔獣がいるらしいから、魔王対抗勢力の獣担当をしてやるわ! 感謝しなさい! 別にお姉ちゃんに頼まれたからってわけじゃないんだから!」


 そういって、ミナはそっぽを向く。そんなミナの頭を撫でる赤髪の女性は、召喚式のときにいた人物だった。


「私はサラ・クロードだ。国王さまの護衛部隊の隊長を勤めている。国王さまから離れる訳にはいかないから、基本的にアイリスはおまえらに任せることになる。だが、ジェルキド殿はアイリス護衛とは別にインフラ整備をされるようだからな、それを補佐するつもりだ」


 「博士は一緒じゃないんですか!」というキドラの声と「え! お姉ちゃん別々なの!?」というミナの声が重なった。

 そんなキドラたちに優しい笑顔を浮かべながら、薄い金髪の少女が口を開いた。


「私はアイリスです。この度は私のためにご迷惑をおかけします。よろしくお願いします」


 アイリスが深々と頭を下げると、あっ!と思い出したように顔をあげた。


「そうです、私、皆さんにお渡ししたいものがあります。ブレスレットなんですが、皆さんを守ってくれるよう、石にお願いしたんです」


 そう言ってアイリスがポケットから紙袋を7つ取り出した。そして一人一人にそれを渡していく。


「女神様のご加護だ~!」


 シークは嬉しそうにさっそくそれを腕にはめ、ロキも小さめに作られたそれを耳にかけ、それはそれは嬉しそうに回りを飛びはねていた。

 そして、姉が一緒ではないとわかってすねていたミナも受け取ったブレスレットに目をキラキラ輝かせていた。

 お礼を言いたいのか、ミナがちらっとアイリスを見る。だが、アイリスと目があった瞬間、ミナは視線を反らしたのだ。

 自分から見つめたくせに、目が会うとすかさず目を反らすものだから、アイリスは困っているようだ。サラもそれに気づいたようで、すかさず妹を軽く叱ると、アイリスに「妹が失礼した」と頭を下げた。

 それにアイリスがブンブンと頭を降って、顔をあげるように言う。

 すると、姉が頭を下げたのに真っ青になって、ミナがアイリスを睨み付けた。

 困ったように笑うアイリスに、再び謝るサラに、またアイリスを睨み付けるミナ。無限ループだ。

 何をしたいんだ、こいつらは、とキドラが内心呆れていると、シークがキドラに絡みだした。


「おやおやぁ? 女子にモテない思考をしているねぇ」

「別にモテるモテないを念頭に思考しているわけではない」

「そーゆーとこだよ」

「データがないと人の考えていることは全くわからない。不気味だ」


 まいった、とキドラが愚痴をこぼすと、シークがキドラに小声で話しかけた。


「まぁまぁ、ミナとかちょーわかりやすいから!」

「何を言ってるんだ? あの女が分かりやすいわけあるか」


 キドラがじとっとした目線をシークにやったときだ。


「べ、別に嬉しいとかないし、あんたと友達になりたいて思ったわけじゃないんだから!!」


 ミナがアイリスにそう叫ぶ。それに納得したかのように、キドラが頷いた。


「なるほど。ミナはアイリスとは気が会わないらしい。事前に付き合い方を提示するとは合理的な女だ。そういう意味では分かりやすいのかもな」

「うんうん、ミナはアイリスと仲良くなりたいんだね!」


 シークがニヤニヤしながらそう言うや否や、キドラとミナの声が重なった。


「「なんでそうなる/ のよ!」」


「えー? なんで二人の声が重なるわけー? ウケる。」


 ゲラゲラと笑うシークに、キドラはわけがわからない、というように眉を潜めた。シークはテクノロジーの助けを借りないでいるくせに、まるでミナのことを理解しているかのような口振りだったのがキドラには理解できなかった。

 視覚情報の分析によると、シークは今楽しいようだ。だが、詳細は脳が繋がっていない今、キドラにはわからない。

 人間はこうもややこしかったか、とキドラは混乱するしかなかった。


「なんか、変な人ばっかっスね」


 レオの小さな声はミナが叫んでいるせいでほぼかき消されていた。だが、テクノロジーが搭載されたキドラや博士、ロキの耳にはばっちり届いていた。

 キドラとしてはレオの意見に、完全に同感だった。


「ああ、全く、先が思いやられる」

「いや、あんたも一応入ってたんスけど」


 心外だと言うキドラに苦笑いしながらジェルキドが口を開いた。


「ではわしらの番じゃな。まず、わしは、ジェルキドという。この世界のインフラ整備を行うつもりじゃ。よろしく」

「確か、インフラ整備の先駆者ッスよね!? 俺、インターネットのこと詳しく教わりたいッス! 情報網をネット経由に広げたらいいんじゃないかって思ってるんスよ!」


 レオが目を輝かせて博士を見る。それにむっとしながらキドラが口を開いた。


「キドラだ。一応人間だが、思考は機械よりだ。それと、レオ。今のおまえのキラキラした目を記録した。後からメリビスに送ってもいいな?」

「うわっ! やめるっスよ!」


 慌てたようにキドラに掴みかかるレオに、むっとしたのは今度はロキの方だった。


『ご主人の親友のロキにゃ! ご主人に拾われて、ご主人には恩があるにゃ! AIにゃ! 語尾は設定コードによるものにゃ!』

「ちょっと! 猫型なんでしょ? にゃあにゃあにゃあにゃあ言わないでくんない? それでからかわれたことあるんだから!」

「申し訳ないにゃ。プログラムにない情報にゃ。何言ってるかわからないにゃ。」


 同じ猫型としてロキにつっかかるミナにロキがとぼける。

 そんな傍ら、シークがキドラにちょっかいをかけていた。


「ねぇねぇ、キドって呼んでいい?」

「……(馬鹿じゃないのか、こいつ)」

「こいつ馬鹿じゃないのか? みたいな反応~!」

「なっ! おまえテクノロジーがインプットされているのか?」

「違う違うー。読心術ってやつ。」


 キドラが脳内でインターネットに接続し、すかさず読心術の意味を検索するが、この短期間で「読心術」の意味の記載されたサイトはさすがに作られなかったらしい。ヒット件数ゼロだった。


「あははは! わけわかめて顔してるー。きみ、面白いねー! さすが、キド。」

「なぜわざわざ略す。キドラもキドも対して変わらないだろう。必要性を感じない」

「いやいやいや。キドってなんか親しいみたいじゃん? 俺、レオ君には嫌われているみたいだからさ、きみとは仲良くしたいんだよ」

「なぜ、俺には嫌われていないて思えるんだ?」

「ひどいー! アイリス助けてー!」


 すかさず、シークがアイリスに泣きついたときだった。


 ぐうぅぅぅぅぅー~~


 どこからか、腹の鳴る音が聞こえてきた。音の音源をテクノロジーが正確に拾った先には、真っ赤に顔を染めたミナがいた。

 キドラが何かを口にする前に、その口をロキのしっぽがすかさずふさぐ。


「っ??」

「あーあ、俺、腹鳴っちゃったよ。はらぺこー!」


 シークの嘆きを合図に、一行は詳しい説明の前に食事をとることになった。

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