中臣紅の日常
白兎
第1話
「あなた、何を知りたいのかしら?」
「私は小さな工場を経営しているのですが、どうも上手くいかなくて、このままでは倒産してしまうかもしれないんです。どうしたらよいでしょうか?」
紅は客の口から言わせたが、聞かなくても相談内容は分かっていた。
「そうね。あなた、息子さんに任せてみたらいいわよ。考え方の違いで喧嘩をするでしょ? それがだめなのよ。あなたが間違っているんだもの。大手の会社の仲介をするベンチャー企業から話しがあったんでしょ? 息子さんは挑戦したいと言った。でも、あなたは反対した」
客の男は驚いた。何も話していないのに、全てを見聞きしてきたように話す紅はまさに神がかっていた。
「なぜそれを? 息子と話したんですか?」
「あなたの息子さんとは会ったことはないわ。あなたが見たり聞いたりしたことが見えただけ。それより、その話しに乗れば未来が好転するわよ。でも、それを断ったら、あなたの言うとおり倒産するわね」
男はうつむき、考えているようだったが、決断をしたように顔を上げた。
「分かりました。あなたを信じて、息子に任せます」
「違うわよ。あたしを信じるんじゃない。息子さんを信じて任せるの。そこがあなたの間違っているところだわ」
男はハッとしたように、自分の間違いに気づいた。
「そうでしたね。まだ半人前だと思っていた息子はもう立派に一人前になっていたんだ。それを私が認めなかっただけだったんだ。気付かせてくれてありがとう」
男は礼を言って、相談料の五千円を支払って帰った。
「お散歩に行ってきます」
紅は昼食の前に、一人で散歩に出かけた。
「いってらっしゃいませ」
榊が見送り、如月が紅のあとを気付かれないようについて行った。如月は紅の護衛だ。
自転車をこいで向かった先は、チューリップが咲く公園だった。
「わーっ、綺麗に咲いてる」
この公園には早咲きから遅咲きまでのチューリップが十万本ほどある。紅は小さな少女を見つけて近寄った。
「お花が好きなのね?」
話しかけると、少女は小さく微笑んだ。紅はその子の手をとり、近くのベンチで絵を描いている女性のそばまで行った。
「こんにちは。素敵な絵ですね」
女性は悲しい笑顔を見せて、
「ありがとう」
と言った。
「私の手を握ってください」
紅が言うと、女性は怪訝な表情で、
「なぜ?」
と聞いた。
「あなたにどうしても伝えたいことがあるとこの子が言っているので」
紅の言うことが不可解で理解できなかったようで、
「何を言っているの?」
と警戒した。
「このままでいいのですか?」
また、訳の分からないことを言われたが、これには深い意味があるのかもしれないと思い、女性は紅の手を握った。
『ママ、もう泣かないで。ママのこと大好きだよ』
紅と手をつないでいた少女が女性に向かって言った。
「
女性は紅の言っていたこと理解した。死んでしまった娘の佐知がここにいる。自分に伝えたいことがあるのだと。
『ママが呼んでくれたら、またママのおなかに戻るよ』
「佐知、本当に? それならまたママのおなかに戻って来てね」
『うん。約束するよ』
少女はそう言うと、光の粒となって、空へ舞った。
「あなたは一体何者なの?」
「私には神が宿っているんです。信じるか信じないかはあなた次第です」
中臣紅の日常 白兎 @hakuto-i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます