第9話 【Consideration】
【Consideration】
僕と母は、男性スタッフにエスコートされ本日の滞在する部屋へと移動する。男性スタッフのすごく印象の感じのいい方で、宿の案内を丁寧にしていただいた。スタッフの教育も行き届いており、宿全体でお客様をおもてなしするという風土というか宿風があることが見受けられる。
きっと満足できる時間を過ごすことができると、僕の心には印象付けられた。僕は自身の誕生日には必ず旅行をすることにしている。仕事の関係で旅行へ行けなかったとしても、ディナーは必ず行くことにしている。今回、僕が地元山口県の大谷山荘を選んだ理由は、宿はもちろんのこと夕食のコース料理が決め手だった。料理長の厳選された特選懐石料理コースというワードが僕の心をくすぐったからだ。
まぁ、大谷山荘の料理であれば、はずれはないと思うが「特選」というキーワードに僕の心はくぎ付けとなった。
そんなことを考えながら男性スタッフにナビゲートされながら、部屋へと到着する。部屋は大きめの和室、部屋には専有の日本庭園がある。日本庭園を部屋から眺める窓ガラスは、一枚ガラスとなっており、日本庭園の良さを引き立てている。まさに水墨画をディスプレイされているようだ。部屋は4Fではあるが専有の庭があるとは何とも豪華であると満足した。
部屋に入ると、テーブルには女将からの誕生日の祝福メッセージが添えられたフラワーアレンジメントがある。男性スタッフからも改めて女将からのおもてなしと説明される。物腰の低い丁寧なスタッフが部屋の設備を案内してくれる。
夕食は17時30分からの会でと予約を完了。それまでは時間があるため、温泉にゆっくりと浸かり、日ごろの疲れが蓄積している体を癒してみたいと思う。
僕と母は仲居さんを見送り、テーブルに腰を下ろす。畳部屋のイグサの香りが心を癒してくれる。おもてなしで用意されているお茶を入れ、茶菓子を頂いた。結構、おいしい焼き菓子だった。
母が「親子で温泉に来れるなんて、幸せだね。パパの看病も終わり、こういう時間が持てることができるなんて、思ってもいなかったよ。お兄ちゃん。ありがとう。」
僕はその言葉に母も随分苦労してきたんだなって思い、あらためて感謝をした。傍から見るとすごく苦労していているように思っても、実際、当の本人は一生懸命にこなしているからその時は苦ではないのだろう。ただ、「ほっと」した瞬間に疲れがどっと出てくる気がする。
もちろん、このことは母だけではなく、すべての人に言えることではあるけれども。
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