第7話 【filial piety】

旅行初日は、13時のローカル線で目的地の大谷山荘へと向かう。僕は免許を持っているが運転はしないため、電車での移動となる。ローカル線に乗車し、母とつかの間の小旅行となる。乗車時間は1時間半程度である。


初めて乗るローカル線で少しワクワクする。まずは最寄駅から1駅の厚狭駅まで乗り、そこで単線に乗り換える。美祢線という路線だ。美祢線は2両編成だった。乗車時間帯では通勤通学の人もおらず、乗車した車内は閑散としており、まさにローカル線といった様子だ。


この雰囲気もなんだか旅情を感じさせてくれる。


車内は長椅子で向かい合いになっている。よくある都内での通勤列車のようなものだ。母と僕は二人並んで着席する。乗り換えの時間も高齢の母のことを考えて、時間は十分とってある。


一人二人と人々が少しづつ乗車してくる。定刻出発となった。列車が動き始める。初めて見る景色に僕は高揚してくる。出発間際の車窓の景色は、よくある田舎住宅地域の景色といったものだった。ことことと列車が住宅地を進んでいく。


徐々に家と家の間隔が長くなり始める。線路と並行して川が流れている。川には川鵜やマガモ、種類が分からないカモが泳いでる。何とものどかな景色だ。母も車窓の景色を見ている。途中ところどころの駅名は知っているようで、この駅には僕の祖父母と来たことがあるとだとか、父と一緒にこの温泉施設に来たことがある気がするなどと、昔話をしていた。


ひとそれぞれ人生の中でいろいろな経験があるんだろうなって母の話を聞いていた。過去の思い出があり、今がある。今回の母との親子の温泉旅行も母の思い出の一つに加えてもらえるのであれば僕はそれだけでうれしい限りだ。


この美祢線は単線ということもあり途中、上下線の運航の関係で、しばらく駅に停車したりする。途中駅で停車中に、車操さんが僕と母のもとへ来て、「お寒くないですか」と気遣いの言葉をかけてくれた。こんな優しさも田舎ならではだなと感じた。母も車操の方の気遣いに感心していた。昨今、他人とのかかわりが希薄になっているため、なんだか心温まるひと時だった。車窓からの景色を楽しんでいるとあっという間に、目的地に長門湯本駅へと到着した。

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