第4話

☆☆☆


今日はなんて素敵な日なんだろう!



超絶美人な転校生が来たときにはどうしようかと思ったが、そのお蔭で柊真があたしを誘ってくれたのだ。



災い転じて福となすとはこういうことを指すのだろう。



「あらあら、今日は随分とご機嫌ねぇ」



すでに放課後デートの情報を知っているヒナがニヤニヤとした笑みをあたしへ向けて来た。



「べつにぃ?」



そう答えながらも、頬のゆるみは止まらない。



「2人きりってことは、色々とチャンスだもんねぇ?」



「チャンス?」



聞き返すあたしに、ヒナが目を見開いた。



「当たり前じゃん! この告白チャンスを逃がすつもり?」



「あ……」



そう言われればそうだ。



今まで柊真と二人きりで遊びに出ることなんてなかったから、告白するなら今日がチャンスかもしれない!



そう思った途端、心臓が早鐘を打ち始めた。



待って。



今日がチャンスだということは理解できるけれど、心の準備はなにもできていない。



「ほら、柊真が待ってるよ?」



そう言われて視線を移動させると、教室後方のドアの前で鞄を持って立つ柊真が見えた。



「で、でも告白なんて……!」



「大丈夫だよ。どこからどう見ても柊真と心美は両想いだから!」



ヒナがあたしの耳元に顔を近づけてそう言って来た。



本当にそうだろうか?



柊真はあたしのことが好き……?



考えてみてもわからなかった。



「ほら、行った行った!」



ヒナに急かされて、あたしは大慌てで鞄をひっつかんで柊真の元へ走ったのだった。


☆☆☆


「ヒナと何話してたんだよ」



二人で学校の階段を下りていた時柊真がそう聞いて来た。



「べ、別になんでもないよ?」



「やけに慌ててたように見えたけど?」



「そんなことないよぉ」



あたしはぎこちなくほほ笑む。



告白のチャンスだと言われたなんて、絶対に言えない。



今日、あたしは柊真に告白する?



考えただけで体全身が熱くなるようだった。



キュッキュッと音を立てながら階段を下りきり、昇降口へ向かう。



普段は叩く軽口も意識しすぎてしまってうまくいかない。



会話は途切れがちで、でも隣を歩く柊真はなにも気に止めていない様子だった。



そのまま2人で外を出た時大西さんがクラスメートの男子に呼び止められるのが見えた。



男子生徒は真っ赤な顔をしていて、しどろもどろ話かけている。



「あいつ、まさか告白する気か?」



柊真の口から『告白』という言葉が出て来た瞬間、心臓が大きく跳ねた。



「ま、まさかぁ」



あたしは緊張でカラカラに乾いた声で返事をする。



「2人でどっかに行くぞ、ついて行ってみるか」



「え?」



「ちょっとだけ。気になるだろ?」



そう言う柊真の顔は好奇心旺盛な少年の顔になっていた。



「でも、もし告白だとしたら申し訳ないよ……」



今日まさに自分が柊真へ告白しようとしているのに、他人の告白シーンを覗く余裕なんてなかった。



しかし、柊真はあたしの言葉が聞こえていなかったようでズンズンと歩き出してしまった。



あたしは慌ててその後を追い掛ける。



「ちょっと柊真……」



声をかけようとした途端、柊真が立ち止まったので危うくぶつかってしまいそうになった。



至近距離で柊真が振り向き、人差し指を唇にあてて「シー」と言った。



その仕草が可愛くて思わずキュンとする。



あたしはそっと柊真の横から顔を出してさっきの二人の様子を確認した。



ひと気のない校舎裏、今日は部活動も休みの日だから邪魔な声も届いてこない。



そんな中真っ赤な顔をしたクラスメートが大西さんになにか話している。



ボソボソと聞こえてくる断片的な言葉の中に「ひと目見て…」とか「すごくキレイで…」なんてものが聞こえてきて、聞いているこっちも恥ずかしくなってきてしまった。



「ねぇ、もうやめとこうよ」



これ以上ののぞき見は良くないと思い、あたしは柊真の腕を掴んだ。



その時だった……。



不意に大西さんが動いた。



身長が同じくらいの男子生徒に一歩近づき、唇を寄せたのだ。



え……?



思わず視線が釘付けになってしまった。



柊真の腕を掴んだまま動きを止める。



大西さんは躊躇することなく、男子生徒にキスをしたのだ……。

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