第二話 革命に去る夜明け

 美味しい四人の美麗びれいな夕食会が終わった。馭者のアウディが馬車を用意していた。四人とも馬車に乗った。エルヴァン一行はクロノワール城へと向かおうとした。弟のアレンは美味しいフォアグラのソテーを食べた。アネット母さんの膝枕でにんまりした笑顔で眠っていた。アネット母さんはステーキが美味しかったわ、と口角を上げた。


「ここはクロノワール革命があった街だ」


 アルベルトはそう言う。


「アルベルト、そんな怖いことなど、話さないで。今日はアレンはすやすや眠っているわ」


 アネットはアルベルトを制した。


「アルベルト。この写真……。貴方だけ、消えてるわ」


 写真を指差し、アネットは気味悪そうに言う。


「アネット、これは私への運命だろう」

 アルベルトはそう言う。


 アネットは甘美かんびな食事会の余韻よいんを愉しむ。だがレオンはアルベルト父さんの様子を疑問に思う。閑静かんせいな町並みを見て昔の師匠から貰った懐中時計を見ていた。そう、アルベルト父さんは緊張していた。夜空に花火が打ち上げられた。革命の最中、気概きがいのある花火師が打ち上げたようだ。美しき夜空には紅い月が夜を照らした。馬蹄ばていを鳴らし、馭者のアウディが荘厳なクロノワール城へと馬車を走らせた。馬のいななきが聞こえた。馭者のアウディは主君へアルベルトに一声挙る。


「エルヴァン様! この王都の通りはクロノワールは革命があった地帯です! この道は危険です! 抜け道をしましょう!」


 アウディはそう言う。

 アルベルトはこう切り返す。


「分かった。貴方に任せる」


 アルベルトは返答した。

 レオンはなにか悪い予感がした。きっと今日の夜はなにか起こるだろう。アレンはアネット母さんの膝枕をして貰っていた。だが、アレンは居眠りから目が覚めた。


「革命?」


 アレンはそう言い、馬車の窓を向こうを見た。アルベルトは申した。アルベルトはレオンの隣に座った。


「父上、やはり出稼ぎに行くのはつらいよ」


 レオンはそう呟く。

 アルベルトは頭をぽんぽんとした。

 そして、レオンにこう言う。


「ああ、レオン。貴方に言いたいことがある。どんな時も礼儀正しく、相手に真摯でいなさい」


 アルベルトは優しい表情のまま威厳いげんたる父の言葉を言う。


「僕はどうなるの?」


 レオンは物憂ものうげにそう言う。

 アルベルトは優しくレオンに視線を投げかけて、そう言う。


「いつか貴方が誰かを愛したとき、私の意志が解るだろう」


 アルベルトは一言一言が重みがあり、彼の発する言葉には妙に説得力があるのだ。


 アルベルトはレオンに大切な事を話そうとしていた。だが、爆発音が街から聞こえる。


 レオンは目を凝らして見つめた。発砲音がした。街から炎が挙がった。と。レオンは幼心ながら思う。男は仮面を被り、真っ黒な外套を纏っていた。手にはピストルを持ち、発砲はっぽうし、街から断末魔だんまつまが聞こえた。


「エルヴァン家はきっと無事だ」


 アルベルトはそう言う。


 アルベルトは神に祈り捧げる。レオンは目を凝らした。物乞ものごいの子供が僕にパンをください、と申した。レオンは仮面の男の手首の裏にダークドラゴンのしるしが在るのを気づいた。フードからマスカレードマスクが覗く。唇が厚い。色深い青年。真っ黒な外套がいとうを纏う男はピストルを向け発砲しようとした。レオンは叫んだ。


「危ない! 逃げないと死んじゃうんだぞ!」


 レオンは叫んだ。

 レオンは安全な馬車から降りて物乞いの子供達の盾になる。馭者のアウディはめんたまを開き、叫ぶ。アネット母さんは絶句していた。アレンは叫んだ。


「兄ちゃん!」

「エルヴァン様!」

「レオン! 待て!」


 アルベルトも絶叫ぜっきょうした。

 レオンは固く目を瞑り、発砲されるのは自分だと思った。だが盾になったのはアルベルトだった。アルベルトは仮面の男からニ発の銃弾を浴びた。レオンは衝撃で何も声が出なかった。アルベルトは物乞いの子供を守り、そしてレオンまで庇った。アルベルトの体は地面へ落ちた。雷鳴らいめいとどろき、車軸しゃじくを流すような豪雨になった。レオンは大粒の涙を流し、父の手を頬に宛てた。腹から夥しい血を流した。貧しい上流階級の貴族、アルベルト・フォン・エルヴァンは粛々しゅくしゅくと瞼を閉じた。

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