機械少女と秘密
また、1日が回り始めた。
今日も授業の開始を告げるチャイムが鳴る。
昨日も鳴って、どうせ明日も鳴るだろう。
時間を破れば与えられる罰則によって、
生徒達はその通りに動かされる。
そうやって学校は成り立ち、
あまりにも単調に僕達の毎日を回している。
そんな高校に、今日も僕はいた。
昼休みを告げるチャイムが鳴ってすぐに
「楓、お昼食べよ」
「腹減った!飯だ飯!」
いつもの2人が僕の席へやってきた。
彼らも同じような
毎日の中をぐるぐると回っている。
唯一回っていなかったのは、僕の弁当だった。
薺の作ってくれた卵焼きが、しょっぱい。
恐らく、砂糖と塩を間違えたのだろう。
「砂糖は入れれば入れる程甘くて美味い」
と薺が言っていたことを思い出した。
なんだか面白くて、
僕は思わず頬を緩めてしまった。
それを見た秋斗が、
「そんな美味いのか?一口もらい」と
薺の卵焼きを口に入れた。
「しょっぱ!」
秋斗の反応に僕は笑った。
この時、ふと秋奈の方を見ると
笑い方がどこかぎこちないように見えた。
「ねえ、楓」
秋奈は唐突に訊いてきた。
「楓って、料理すごい上手だったよね?
私、楓が料理失敗するの見た事ないよ」
「まあ、人並みには出来るかな」
「だよね?じゃあ、さ」
彼女は真剣そうな口調で問いかけてきた。
「その卵焼き。作ったの、誰?」
秋奈はじっと僕の目を見つめてくる。
嘘はバレるからね?
とでも言われてるような気がした。
返答に困り、僕は彼女から目を逸らす。
卵焼きを作ったのは薺だ。
確かに僕ではなかった。
だが、それを明かす訳にもいかない事情がある。
薺の存在は極力知られたくない。
何せ、僕は彼女を“拾った”のだ。
もしかしたら法的にも危ないかもしれない。
黙り込んでいると、
「まあまあ、
楓だってミスする時くらいあるだろ。な、楓?」
秋斗が口を挟んだ。
僕は彼に最大級の感謝をしながら話す。
「だね。寝惚けててね、やっちゃったんだよ」
秋奈は表情を変えない。
「なら、もう1つ質問。
先週の土曜日、何してた?」
僕は再び返答に困った。
先週の土曜日、とは5月7日のことで、
その日、僕と薺は
ショッピングモールへ買い物に出掛けていた。
秋斗は
「俺はたまの運動と思ってボウリングをだな」
と話を始めるも、秋奈に「ちょっと静かにして」
と言われてしまいシュンとしてしまった。
僕はここで、一つの可能性に気付いた。
もしかしたら、秋奈は既に
薺の存在を知っているか、
勘づいているのではないだろうか。
ショッピングモールで
服を選ぶ僕らを偶然見かけたとか、
その可能性は十分あるだろう。
土曜日を指定してくるのにも違和感を感じる。
僕の口から薺の存在を吐かせ、
詳しい話を聞こうとしているのかもしれない。
だが、無論、
彼らに薺の事を明かすつもりは無かった。
だが、僕の良く知る2人のことだ。
仮にいとこだとか、知り合いの女の子だと答えても
「彼女?」だとか「どこまでいったの?」だとか散々にいじられ、
問い詰められてしまう事は明白だった。
悩んだ末、僕が辿り着いた結論は、
「土曜日は、家で一日中本読んでたよ」だった。
秋奈が何処かで偶然発見したであろう僕らは、
実は似てるだけの赤の他人でした、
という事にしてしまおうと思ったのだ。
名付けて“他人の空似大作戦”。
それを聞いた秋奈は、僕の目を見て
「本当?」と聞いてきた。
僕は静かに頷く。
「そっか。そうなんだ」
彼女は少し悲しそうな顔をしたように見えた。
“他人の空似大作戦”が成功したかどうかは、
現状判断がつかなかった。
六時限目のチャイムが鳴った。
日直の掛け声と共に立ち上がり、礼をする。
数学の授業らしいが、
俺にとってはそんな事どうでもいい。
俺の六時限目は昼寝の時間だ。
1日頑張った自分を労ってやらなくてはいけない。
腕を組み、目を瞑った。
落ちていく意識の中で、俺は考え事を始めた。
竜胆は楓に気がある。
というか、惚れている。
随分と前から、
俺は彼女の恋が実ることを祈り続けていた。
恋する女の子は可愛くなる、
とどこかで聞いたことがあるが、
確かに初対面の時と比べて、
彼女は大きく変わった。
化粧をするようになり、
香水をつけるようにもなった。
ある日、本人からさりげなく聞き出した
“楓は女の子らしい子がタイプ”
という情報を伝えると、彼女は
スカートを履いたり、ワンピースを着たり、
やたらと女の子らしい服装をするようになった。
こういう素直に、真っ直ぐに努力出来る所は、
彼女の長所の一つと言えるだろう。
だが、恋愛というのは
中々上手くいくものでもないらしい。
一時間程前の昼休み、問題が発覚したのだ。
もしかしたら、楓に彼女か、
それに近い女がいる可能性が出てきたのだ。
秋奈の真剣な眼差しと、
珍しく苦しげな楓の姿が頭に浮かんできた。
あんな楓は見たことが無い。
きっと、何か隠し事があるに違いない。
そう思うと、
その隠し事の内容を
暴きたくて暴きたくて仕方が無くなってきた。
本当に彼にそんな女がいるのだろうか?
俺は、彼の浮気疑惑の
真相に迫るための策を練り始めた。
眠りから醒めると同時に
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
心地よい時間だった。
起立、礼を済まし、秋奈のもとへ歩く。
寝ている間に、面白くて、意外性があって、
真相を明らかに出来るかもしれない
天才的な策を思いついたのだ。
「なあ、竜胆」と、話しかけると
「なに?」と不愉快そうな竜胆の声が返ってきた。
俺はその声に負けず言った。
「明日、学校サボって楓の家に突撃しようぜ」
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