リハビリ⑥
「先ず、正義の味方の仕事について語る前に、今の現世…つまり、遼司さんが亡くなられて30年後の現在、世界の情勢がどうなっているかを知っていただく事から始めます。」
八千代さんの口から出てくる言葉の数々に私は驚きを隠せずにいた…。長年、病によって常に生死の境をさ迷っていた私にとって、現世は驚きの世界だった…。
「今の時代はほぼ、人口知能AIやコンピュータでの情報網なしでは普通に生きていけない様な世界になっています。」
「そうなんですか…。」
「そうです。遼司さんが亡くなられてから急速に世界全体が情報化社会へと変化して行きました…。そして、ここ3年で、その情報化社会への加速は急速に早まざる得なくなったんです…。」
「そ、それは何故ですか?」
ITの発達…。以前では考えられないような世界規模の莫大な情報量が瞬時にわかるようになった文明社会…。そして、私が生を全うした後に起こった人々の生活環境の変化…。今、こうして、1度死に,"魂"という存在になった私が、『阿武隈 遼司』と名乗る人物に生まれ変わらず、輪廻の環の中に入ってしまっていれば知る事もなかった現実世界…。
「遼司さんは、蕃神や旧支配者という言葉はご存知ないですよね?KOVID-666の存在も…。」
「な、何ですか?それは…。バンシンやらキュウシハイシャ?コビッドトリプルシックスとかいうのは?」
また、謎の言葉が八千代さんの口から出てくる…。それが一体何者であるのか…それを答えるよりも先に八千代さんは別の言葉で私の言葉を切り返した。
「3年前に世界中でパンデミックが発生したんです。パンデミックという言葉はご存知でしょうか?」
「いや…初めて聞く言葉ですね…」
パンデミック…続々と知らない言葉ばかりを並べて説明を受けて困惑している私に八千代さんは、ニコリと笑顔を作ってみせた。そして、私にパンデミックの説明を始める…。
「パンデミックというのは…一昔で言えば、天然痘や結核、ペストなどの未知の病原菌に世界中の人々が感染してしまうことを言います。そして、KOVID-666というのは、未知の病原菌の名前の事です。この獣の数字がついた人造ウィルスに感染してしまうと、人間も含めた生き物たちは急激に身体を蝕まれ蕃神やら旧支配者の眷属に変化して、罪のない人々を襲い始めるのです…。既にこの人造ウィルスは世界中で数千万単位の人々の尊い生命を奪っていきました…。」
天然痘や結核、ペストは学校で歴史の勉強をしていた時に教官より教えてもらった歴史上の災害の事だ。治療方法不明、発生原因不明の病原菌が、当時の世界の人口の半分以上の奪ったとか…。それが、今の現世で発生しているのか!しかも人の命を奪うだけではなく人間を化け物に変えてしまう…。"バンシン"や"キュウシハイシャ"とは未だに教えてはもらっていないので分からないが、兎に角、人間を化け物に変えてしまう"コビッドトリプルシックス"という名のウィルスが原因と八千代さんは言った…。だが、その話に中で特に気になる部分がある…。
「人造ウィルスという事は、このウィルスは人が作った物なんですか?」そう、八千代さんはこのウィルスを『人造ウィルス』と言ったのを私は聞き逃してはいなかった。『人造』…。つまり、人の手によって作られたウィルスということになる…。
「人というべきか…蕃神やら旧支配者の眷属に成り下がった人間が作った物と言うべきか…。」
八千代さんは言葉を選びながら、私に答えているのが、その表情や様子で良く分かった…。非常にデリケートな問題なのだろう…。だが、この話が出るという事は、この"SAGASAGA"の世界で、私が正義の味方なるものをしなければならないのなら、必要不可欠な情報ではないのだろうか?
「では、その蕃神やら旧支配者とは何者なんでしょうか?」
結局のところ、バンシンとキュウシハイシャと呼ばれる者達が何者か分からない限り、この話は進まない。私は八千代さんにその、存在が何者であるのかを尋ねてみることにした。
「蕃神も旧支配者も大体同じような意味を持ちますが、蕃神は神で旧支配者は、その眷属だと思っていただいて結構です。この世界の創造された遥か古の時代に、今のこの世界におわします神々と、地球の覇権を巡って戦った宇宙から来た神々やその配下の事を言います。蕃神と旧支配者達は、この地球の神々達に敗れ、蕃神はこの世界に劣悪な環境でも暮らしていける生き物達でさえ、住むのも困難な場所へと追放されました…。ですが、旧支配者達は蕃神達の封印を解くことも、自分達がこの現世の世界の覇権を握ることをあきらめてはいません…。」八千代さんの説明は難しくて、全ては理解できなかったが、つまり、この私がこの世界へ転生してすべきことは、この旧支配者達と戦い蕃神達の復活を止めると言うことになる?事なのか…。
「や、八千代さん、私の敵というのは、この旧支配者達や蕃神達ということになるのでしょうか?」
「い、いえ…。遼司さんが戦うべき、主に戦う相手は現世世界で旧支配者や蕃神達を深く信仰している普通の人間です。旧支配者や蕃神達、勿論、眷属達も、メタバースである、この"SAGASAGA"の世界に侵入することが出来ないように創られています。侵入できるのは人間か旧支配者や蕃神達に属しない者…。ですが、ここに大きな穴がありました…。つまり、眷属でもない旧支配者や蕃神達を信仰した人間であれば、この世界へ侵入することができる…という事です。そして、その者達は"SAGASAGA"世界の内部から、旧支配者や蕃神達を、仮想現実な形で復活させようと画策しているのです…。」八千代さんはそこまで言うと黙ったまま、私の反応を待っているようだった…。
「それを止めるのが私の役目ですか?」今の私には、そんな言葉しか思い浮かばない…。そこまで深刻な話とは露知らず、適当な返答しかせずに、こちらの世界へ私を転生させたショロトルという黒い犬…創造神らしいが…。ちょっと騙された感じも気がしないでもない…。
「そうです。阿武隈 遼司…。遼司さん…それが、あなたのこの世界ですべき役割になります。」
「あははははは…。成程…。生まれ変わったと、ぬか喜びしてましたが、それは大ごとな役目を背負わされてしまったんですね…。それはそれは大変だ…」そこまでいうと妙に全身の力が抜けてしまった…。今度、あの犬に会ったら、どうしてやろう!
多分、異世界転生もの。 かたしよ @otsuma4041
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