リハビリ②

この何もない広く真っ白い空間の中に、私と私を見つめる小さな黒い子犬…。

何とも滑稽な様子だが…。私をこの空間に残して消えた少年が言った「創造神」だの「ショロトル」という言葉…。そして、『SAGASAGA』という恐らく、このあの世の名前…。魂という存在である私と小さな黒い子犬は、しばらく、約1mほどの離れた状態で、ただただ、お互いを見つめ合う。何かこちらから話かければ良いのだろうか…。

だが、正面にいるのは子犬だ。小さな黒い子犬…。会話自体が成り立つのだろうか…。


「流石にお祖父さんだ…。確かによく似ている…」


子犬がそう話したかのように思えた。お祖父さん…どういう意味だろう…。


「え~っとですね。あなたは死にました。そしては今は魂の状態です。僕の言っている事が分かりますか?」


「!?!?!??!?」間違いなく目の前にいる小さな子犬が私に向かって話かけている…。


「えええっと…どなたかは存じませんが、犬ではないんですか?話をしてきたのはあなたですよね?」


「そうですよ!僕とあなた以外に、この転生の間に誰がいるんですか?」


「は、はあ…。で、あなたは一体…」


「僕の名前はショロトルと言います。まあ、一応、神様という存在ですね!あなたがいるこの空間は転生の間と呼ばれる場所…。普通に亡くなった方は、ここには来ないですね!少し訳アリで現世を全うした魂が新しく生まれ変わり先を決める場所って感じですかね!あとは、かなり端折りますが、ここはあなたが今までいた地球ではなくSAGASAGAとよばれる世界の入り口です。」そういうとショロトルと名乗る黒い子犬はしばらく黙り込んでしまった…。何を考えているのだろう…。


「あ、あの…、ショロトルさんでいいですか?」首を傾げたままで動かない子犬に向かって、私は話しかけた。


「あ、はい!いいですよ!」突然、我にかえってきた様子でショロトルという神様は答える。続けるように私は疑問に感じた事を、ショロトルさんに尋ねてみることにする。


「あなたは子犬みたいな姿ですが、神様で、私はあなたの言葉を借りると、少し訳アリで現世を全うした魂ということでしょうか?そして、ここは地球ではないと!SAGASAGAという世界なんでしょうか?」


「SAGASAGAは地球のなかにある別の世界なんです。そして、今は、あなたが人間として生を全うして約30年後の世界です。」


「さ、30年…。タイムスリップしたということでしょうか?」


「タイムスリップというか…この世界には通常の時間の概念は通用しません。あなたのように30年前に亡くなった人もいれば、今、実際、生きている人間もいる…。未来から来た人もいれば、僕のように人間ではない存在の全てが交わった世界…。人間も神も悪魔も妖精も…そして、幽体…魂と呼ばれるあなたのような存在も平等に生きていける一種の仮想空間の世界という事にはなっています。本当は違いますけどね!今は意味が分からないと思いますが、次第に分かってくると思いますよ!」


「そうおっしゃるのなら…次第に分かるんですね…あ、あとは、その少年が言っていたNPCですか?それってなんでしょうか?」


「え~~っと、ここはあなたが亡くなってから30年後の世界なんですよ。その時代にはメタバースっていうんですけど、生きている人間がその場に居ながら、違う世界で別人として生きることができるコンピュータが作り上げた…。って、コンピュータって分かります?」


「はい。私の孫が、プログラムとかいうのを教える学校に通っていました…。それ以外は詳しくは分かりませんが…」


「ははは…お孫さん…。ま、まあいいや…。そのコンピュータがあなたの生きていた時代から、驚くほどに発達したんですよ。あなたが人間として、この世を去った30年の間に…。そのコンピュータが作った世界が仮想現実世界。そして、このSAGASAGAの世界は、一応、そのコンピュータが作りあげた仮想現実世界という事になっています。メタバースというのは、その仮想現実世界を更に現実的にしたものだと考えてください。

そして、この今を生きている人間の方はメタバースというSAGASAGAという名前の仮想現実世界であると思っている…。実は僕も含めた世界中の神様達が作った違う次元にある世界なんですけどね!」


「それとNPCというはどういう関係なんでしょう?」


「NPCはその名の通りノンプレイヤーキャラクターの略です。つまり、実在する人間がではなく、世界を創造しているコンピュータが作り上げた架空の人物の事をいいます。これも本当は違いますけどね!でも、人間達にはコンピュータが作り上げた人物という事にしてあります。」


「う~~~ん。全く意味が分かりません。」ショロトルと名乗る神様の言葉が正直分からない…。


「特に深く考えなくて良いですよ。プレイヤーと呼ばれる方がほとんどなんですが、その方達は現世にちゃんと人間としての身体がある者。NPCは現世に身体がないので、この世界だけでしか生きていけない者という括りで考えてください。」ショロトルという神は私にそう答えた。私はとりあえずNPCという存在らしい。そして、プレイヤーという人間がいるらしい…。


「益々、分からなくなってきました。」素直に自分の考えている事をショロトルに伝えてみる…。


「兎に角、あなたは人間の生を全うし、新しい世界で違う人物として生きていくことになります。そして、既に、その目的も役割も既に決められているのです。それをこれから説明しましょう。私の後に付いてきてください…。」


ゆっくりと4つ足で立ち上がり、白い空間の更に奥の方へ進み歩くショロトル…。その後ろを今の私は付いていくしかない…。


「もうすぐ着きますので!この世界であなたが生きていくための、新しい名前と新しい身体を用意していますので…。」ショロトルがそう答える。白い空間の先に青白く輝く靄の様な物が広がっていた…。何の抵抗もなく、その先へと進む前方にいるショロトル…。私もその後ろから靄の中へと入りこんだ…。



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