リハビリ③
ショロトルに着いていった青白く輝く靄の様な物の先は、まるで昔読んだSF小説にでてくるような、何か得体の知れない機械が所狭しと並ぶ不思議な部屋だった…。広さは先程の転生の間と呼ばれていた白い空間とは比較にならない程、狭いが、それでも学校の講堂程の広さはあるだろうか…。
ショロトルは、その不思議な部屋の中央まで歩いていくと急に足を止めた。ちょうど部屋の中央になる、その場所には、エジプトのファラオのミイラが眠っているかのような形をした棺が1つだけ置いてあった。私は宙の上から無造作にその半透明の棺の中を覗きみる。
中には仰向けに眠っている見知らぬ男性の姿…。年齢的に20歳歳代前半であろうか…。黒髪に整った顔立ち、さぞや異性にモテるだろう。服装は細身の黒いスーツ姿であるが、そこからでも分かる筋肉質の身体…。黒いスーツ姿と相まって例えるならクロヒョウのような体つきと言っても良いかもしれない。
そんな雰囲気を醸し出した男が、半透明色の棺の中で眠っている…。彼は一体何者だろうか…。
「え~~っと、この棺の中にある身体が、あなたの新しい魂の器です。」唐突に、ショロトルが私に話しかけた。
「あ、あの…どういうことでしょう…。」
「いきなり、そんな事言われても困るのは分かります。今、あなたは魂というのは分かりますよね?」
「それは勿論、死んじゃいましたから…。はははは…。」
「私や先程の…ま、まあいいや…。兎に角、特殊な存在でしか魂を見る事もできませんし、話す事も触ることもできません…。あなたは、このSAGASAGAの世界で、正義の味方をしていただきます。その為に必要な身体が、この棺の中にある魂の器であるホムンクルスです。」ショロトルは1瞬、私を見つめた後に、棺内の方をみつめながら、そう答えた。
「わ、わたしが…この男性になるんですか?」
「物分かりが良いですね!流石です」
「ですが…どうやって…」
「そのまま、このホムンクルスの身体の中に入り込めば良いだけです。それでホムンクルスの身体とあなたの魂の融合が始り、融合が終わるまで、しばしの眠りに入ることになります。そして、次に起きた時には、あなたはこの姿で、このSAGASAGAの世界の中で正義の味方として活躍する訳です。」
「せ、正義の味方ですか…。」ショロトルの言葉に実感が湧かないが、私がこの男の身体…ホムンクルスと呼ばれる身体の中に入ると、新しい人生が始まるのだろう…。
「幾ら、現実とは違う世界でも悪い輩はいるものです。それを退治する者と言った方がいいかな…。一応、プレイヤーと呼ばれる人間の中にも良い人もいるし、悪い人もいる。NPC達も人間達と同じく出自はそれぞれなので、それを裁く者が必要じゃないですか!その裁く者として、あなたが選ばれたというか…。まあ、そんなところです。コンピュータ用語でいうとセキュリティソフトって奴です。それがあなたの新しい生き方…。」
「もう、何がなんだか訳が分かりませんし、非常に難しい仕事のような気がしますが…私にできるのでしょうか?」
「大丈夫!大丈夫!ちゃんと、あなたを補佐してくれる仲間達もいるから、安心して正義の味方をしてください。あと、このSAGASAGAの世界の中では、私を含めた創造神達を除けば、あなたがこの世界で最強です。う~~んと、あなたの年代なら…例えば何でもできるスーパーマンになれるってことです。スーパーマンは分かりますよね?」
「は、はあ…。スーパーマンは分かります。」
「それなら問題ない!あなたは、今からSAGASAGA世界のスーパーヒーローなります。悪いやつをバッタバッタと倒して、世界の平和と秩序を守ってください。それでは、始めましょうか…。」
「えっ、いきなりなんですか?」
「いや、もうこれ以上、これと言って説明することもないし、僕もほかにも沢山、仕事がありますので、まあ、頑張ってください。では、棺の中にある身体の中へ入ってください。」ショロトルはわたしにそういうと、急かすように私を棺の中にある男の身体の方へ促した。確かにもう死んだ身だ!特に目的もなく、既に魂の状態であるのは間違いないのも確かなので、素直にショロトルの促す通りに棺内にある男の体の中に身体を侵入させる。
その途端、急激に私の身体がねじられたり引っ張られたりと男の身体の中で変化を起こし始める。まるで、洗濯機にいれられた洗濯物のような感じがする。それがしばらく続くと次は、今まで見えていた全ての視界が真っ暗になった…。魂にも意識があるのか分からないが、私の意識がスーッと飛んでいく…。これがショロトルの言う融合なのだろう…。
「では、しばしのお休みを!期待していますね!お祖父さん」
遠ざかる意識の中でショロトルの声が聞こえたような気がした…。
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