第10話:犯罪者には罰を

 聖歴1216年1月8日:エドゥアル視点


 俺とゴッドドラゴンのラファエルは、初めて訪れたサン=ジャン=ド=リュズと言う港町を歩きながらこれまでの事を話していた。

 いや、俺は女性と何気ない会話をするのが苦手なので、ラファエルが一方的に話しかける状態が続いていた。


「エドゥアルは本当に優しいのじゃな。

 ルイーズ教団にさらわれ売られた者たちを助けようとするのじゃから」


 ゴッドドラゴンのラファエルは心底感心したように言うが、大したことではない。

 両親や祖父母がやってきた事をマネしているだけだ。

 弱きを助け強きを挫くのが我が家の家訓なのだ。

 今生だけではなく前世の記憶と想いも、かわいそうな弱者を助けろと俺に訴える。


「感心するような事ではない。

 当たり前の事を、当たり前にやっているだけだ」


 俺はボルドーの町に巣食っていた悪質な冒険者ギルドを壊滅させた。

 冒険者の8割、400人を半殺しにして町の人々に引き渡した。

 よほど酷い事をされていたのだろう、俺が目を覆うほどの報復が行われた。

 だがその報復が腐れ外道どもの更なる罪を暴く事になった。

 生き残りたい一心で、さらった人を奴隷として売った事を自白したのだ。


「神殿の聖職者連中の下劣さはひどかったのじゃ。

 まあ、それに相応しい殺され方をしたから、妾も暴れるのを我慢できたのじゃが」


 町の人たちを苦しめる戦力となっていた冒険者ギルドと冒険者たちは壊滅させた。

 生き残った冒険者たちは俺の事を本当の勇者だと誤解している。

 俺が町の人たちを助けようとしたのをよく知っているので、少なくともルイーズ教団に協力して町の人々を害する事はない。

 それどころか積極的に助けたから、町の人たちは教団を叩き潰せた。


「町の人々にぶちのめされて、血塗れになった聖職者たちが、本当の召喚聖者ルイーズに懺悔して、教団の悪事を自供したのは気分爽快だったのじゃ。

 ルイーズ教団の神殿だった場所は、町の人たちが自警団本部として活用するのじゃから、もうボルドーの町でルイーズ教団が力を持つことはないのじゃ」


 ボルドーの冒険者ギルドは、俺に協力した冒険者の半数が運営を続ける。

 残る半数の冒険者が、ボルドー自警団を運営する。

 相互に監視する体制なら、急に腐敗する事もないだろう。

 まあ、俺が定期的に顔を出せば、悪事を企む気にはならないだろう。


「ボルドーの領主も、セミドラゴンのリンドヴルムを見て震えあがっていたのじゃ。

 あんな憶病者に、エドゥアルに逆らう勇気などないのじゃ」


 ラファエルは俺との交渉で震えていたボルドーの領主をバカにするが、普通の人間にリンドヴルムを一撃で斃す強大な存在と対峙する勇気はない。

 今までは俺が溢れ出る膨大な気配を抑えていたから普通に話せただけなのだ。

 逆らわないように脅すつもりでほんの少し気配をもらすだけで、対峙する人間は生存本能を刺激されて恐怖に震えるのだ。


「少しはエドゥアルも話すのじゃ。

 妾だけから話しかけるのは寂しいのじゃ」


「ラファエルのかわいらしい声を聞きたかったのだよ」


「……」


 ちょっとからかっただけなのに、真っ赤になって黙り込むのは止めてくれ。

 口にした俺が気不味いではないか。

 俺には今生も前世も女性と良好な関係を築くスキルはないのだ。

 女性がよろこぶ会話を考えるよりは、これからやる事を話す方が簡単だ。

 

「ボルドーの町での過ぎた事よりも、この町でやる事を考えよう。

 売られた人たちが全員この町に残っていればいいが、他の場所に転売されていたら、そこまで乗り込まなければいけない」


「そうじゃのう、転売するつもりだから、スエガリシア王国との国境にある港町に被害者を集めたのじゃろうからのう」


 ラファエルには可能性があると言ったが、まず間違いなく転売されている。

 

「海を渡らなければいけないような遠い国に転売されている場合は、ラファエルに助けてもらわないといけない」


「その時は妾にまかせるのじゃ。

 どれほど遠い国に転売されていようと、妾がひとっ飛びで連れて行くのじゃ」


「その時は頼むよ、ラファエル」


 やる気と好意を見せてくれるラファエルには気持ちよく手助けして欲しい。

 嘘を言う気もなければ御世辞を言う気もない。

 正直な気持ちを伝えているだけだ。

 俺自身にも大陸間を単独で飛行できる魔力はあるが、ゴッドドラゴンであるラファエルの助けてもらえると助かるのだ。


「ではまずこの町の神殿に行こう。

 奴隷にされた人たちが神殿の中で売春させられているは思わないが、神殿長をはじめとした幹部聖職者なら、どこで売春させているか、どこに転売させられたのかを知っているだろうからな」


 ★★★★★★


「ギャアアアアア、言う、言うからもう止めてくれ」


「言いたいのならさっさと白状するのだな。

 俺は別にお前が白状しなくても構わないのだよ、神殿長。

 お前が言う前に正直に話して、拷問から逃れたい連中がたくさんいるのだよ」


 俺に爪と肉の間に鉄串を差し込まれた神殿長が泣きわめく。

 ほんの少し痛みを感じただけで許してもらえると思っているのか、腐れ外道。

 お前たちに地獄の苦しみを与えられた人たちの事を考えれば、どれほど泣き叫んでい許しを請われても、許す事などできない。

 徹底的に痛めつけてから被害者たちに引き渡してやる。


「ギャアアアアア、話すと言っているだろう」


「ほう、だったらお前は、助けてくれと言った何の罪もない人たちを許したのか。

 召喚聖者ルイーズの教えだと嘘をつき、聖職者以外は人間ではないと言って、散々いたぶって快楽を得たのだろう。

 さっき『五穴自白』の経穴を突いた時、全てを話したではないか。

 今さら誤魔化せるとでも思っているのか」


 俺はラファエルと一緒に神殿に乗り込んだ。

 自分たちの姿や気配を完璧に消す補助魔術を使ったうえでだ。

 だから誰に見つかる事もなく神殿の最深部に入り込む事ができた。

 そして神殿長と幹部聖職者に自白させる経穴を突いて、すべてを白状させたのだ。

 今拷問しているのは、確認の為と言うよりは、こいつらがやった事に対する罰だ。


「ギャアアアアア、話します、話しますからもうやめてください」


「何度同じ事を言わせる気だ、愚かな神殿長。

 お前は自分のやってきた悪事を話せばいいんだよ。

 悲鳴も言い訳も必要ないのだよ」


「ギャアアアアア、売春宿です、売春宿にボルドーから連れてきた奴隷がいます」


 やっと偉そうな口調を止めたが、その程度でやった罪がなくなるわけではない。

 だが、被害者でもない俺がこれ以上罰を与えるのも間違っている。

 この腐れ外道どもに罰を与えられるのは、被害を受けた人たちとその家族だ。

 俺だって好きで拷問をやっているわけではない。


「「「「「ギャアアアアア」」」」」


 神殿長が自白したから、もうこれ以上この神殿の幹部に拷問を見せて脅かす必要はなくなったから、ラファエルが一斉に神殿幹部の両膝を砕いた。

 俺たちが被害者を助けに行っている間に、逃げだせないようにするためだ。

 俺も爪と指の間に鉄串を刺すだけではいられない。

 ちゃんと両膝関節を粉砕して、逃げられないようにしておかないといけない。


「ギャアアアアア」

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