第11話:被害者救出

 聖歴1216年1月8日:エドゥアル視点


「もう隠れてこそこそ動く必要はないのじゃな」


「ああ、腐れ外道の聖職者どもも、もう逆らう気力はないだろう。

 あいつらが正直に自供するなら、ボルドー領主の財産である領民をさらって奴隷にした事は、領主間の戦争になりかねない犯罪だ。

 俺の事を心から恐れているボルドーの領主なら、俺に逆らって勝手に金で解決するような事はない」


「そう言う事なら、今回は妾にやらせてくれ。

 ぜんぜん戦えなくて、力が溜まりに溜まってイライラしてしまっておるのじゃ。

 エドゥアルが教えてくれた魔力増強法で、魔力器官で生み出せる魔力だけでなく、蓄えておける魔力まで10倍以上になっておるのじゃ。

 少しは発散しないと頭がおかしくなりそうじゃ」


「しかたないな、10倍程度でイライラしていたら、100倍1000倍になったらどうするんだ」


「なに、100倍1000倍にもなるのか、それは楽しみじゃ。

 ふっふっふっふつ、そうじゃな、100倍になったら、恨み重なる管理神に魔力を叩きつけてやるから大丈夫だ。

 魔力が100倍になったら、管理神にも勝てるじゃろう?」


「魔力が10倍になった今でも管理神に勝てると思うが、絶対に戦うなよ。

 俺が許可するまでは戦わない事を条件に、魔力増強法を教えたのだからな」


「分かっておるのじゃ、エドゥアルに嫌われるような事はしないのじゃ」


「だったら、ここで少し発散するくらいは許そう。

 だけど、魔力を外に漏らす事は許さない。

 管理神がラファエルの魔力を覚えている可能性が高いのだ。

 今この段階で管理神に介入されると、俺の予定が狂ってしまう」


「安心してくれ、妾もそれくらいの事は分かっておるのじゃ。

 魔力が外に漏れないように、身体能力の増強だけに魔力を使うのじゃ」


「ラファエルなら、魔力で身体能力を強化しなくても、筋力だけで人間など八つ裂きにできるだろう」


「いや、どれだけ早く動けるか、どれほど強い力を使えるか、確かめたいのじゃ」


 ラファエルと仲良く会話しながら、神殿から売春宿に向かった。

 被害者たちを少しでも早く助けたいから、全速力で走りながらの会話だ。

 だからのんびりと話しているような会話だが、実際には誰も聞き取る事ができない、超音速にならないギリギリの速度下での会話なのだ。


 ドッガーン!


 ラファエルが問答無用で売春宿の壁を破壊する。

 奴隷にされた被害者を巻き込むようなら、厳しく注意をするのだが、今回はゴッドドラゴンの基本能力で生物の位置を把握しているようで、誰もいない場所だ。

 魔力増強にともなうイライラを発散したいから、魔力を使って暴れたいと言っているのを聞いたばかりだから、何も言うまい。


「わっははははは、妾は真の勇者エドゥアル様の従者ラファエルだ。

 召喚聖者ルイーズの名を騙り、何の罪もないボルドーの民を誘拐して売春させている背教徒どもよ。

 真の勇者エドゥアル様に成り代わって成敗してくれる」


 ラファエルが大見得を切って手加減なしの大暴れを始めた。

 手加減しているつもりなのだろうが、俺から見れば力が入り過ぎている。

 頭や胴体を狙っていないから、即死させてはいないが、一撃で半死半生だ。

 軽くパンチやキックが当たるだけで、四肢が千切れ飛ぶどころか、四肢の骨も肉も粉砕されてひき肉のようになっている。


「ラファエル、もう少し力の調節ができるようにならないと、紙一重の差しかない敵と戦った時に、先に魔力切れを起こして負ける事になるぞ」


「分かっているのじゃ。

 だから力の調節を覚えるために戦わせて欲しいと言ったのじゃ。

 妾だって知腰は考えておるのじゃ」


「分かったよ、死にかけている連中は回復魔術で元通りにするから、満足するまで力の使い方を練習すればいい」


 目に見える程度のひき肉になってしまった売春宿のクズども四肢だけでなく、微量になって空気中に飛散している元四肢の細胞まで集めて元通りの手足に再生する。

 俺にとっても、恐ろしく繊細な魔力の使い方が練習できる好機でもある。

 奴隷にされた人たちが復讐したいと言った時の為にも、腐れ外道どもを簡単に死なせるわけにはいかないから、全力で腐れ外道どもの身体を再生する。


 ★★★★★★


「大丈夫かい、もう何も心配はいらない、ボルドーから助けに来たよ」


 俺は四肢が破壊され続ける腐れ外道どもに再生の魔術をかけながら、奴隷にされて売春を強要されていた人たちを助けた。

 片目が潰されているだけでなく、指も叩き潰され、ほとんど全ての歯をへし折られている女性もいた。


「必ず元通りの身体に治してあげるからね」


 俺は沸き起こる怒りを必死で抑え込みながら、毛ほどの傷痕も残さないように、細心の注意を払って回復魔術で癒した。

 身体の中に壊されてしまった組織を再生するだけの余力がないと、どれほど強大な魔力があろうと治癒させる事はできない。

 だから、しかたなく、一時的に腐れ外道どもの細胞を拝借する事にした。


「むだよ、冒険者ギルドだけでなく、教団や魔術師協会までグルなのよ。

 ここから逃げても直ぐに捕まるだけよ」


 普通なら、魔術では傷や病気は癒せても、失われた血液などは回復できない。

 新たに外部から食べるか何かして補充しなければいけないのだ。

 だからこそ、回復ポーションには栄養価の高い液体でできている。

 だが、俺ならば、傷や病気を治す時に、外部から必要なモノを患者の身体に入れて、内臓や魔力回路に介入して身体を完璧に癒せるのだ。


「よかった、力強く反論できるようになったのだね。

 大丈夫、ボルドーはもう安全な場所になっているよ。

 冒険者ギルドだけでなく、教団も魔術師協会も壊滅させたよ。

 それだけでなく、悪党連中には激しい拷問をかけて全てを白状させた。

 そうでなければ君たちがここにいる事を知る事など不可能だよ」


「……ほんとうなの、ほんとうにボルドーの町は安全になったの」


「ああ、本当だとも、完璧に安全になっているよ。

 そら、あそこで暴れている美少女を見てご覧。

 ここを仕切っていた、暴力しか取り柄のない腐れ外道どもが、何の抵抗もできずに叩きのめされているだろう。

 もし教団や魔術師協会の本部がボルドーの町に襲い掛かってきても、あの美少女が片手で皆殺しにしてくれるよ」


「でも、連中直ぐに元通りに治っているわ。

 あれは教団の回復魔術で治っているのではないの。

 あの少女どれほど強くても、どれほど攻撃しても、回復してしまうのではなくて」


「おい、ラファエル、この女性が心配しているから、もう練習は止めろ。

 この女性に、腐れ外道どもが教団の力で回復していない事を証明する」


「分かったのじゃ。

 エドゥアルのお陰でかなり魔力と命力と筋力の配分が分かったのじゃ。

 蓄えきれない分の魔力と命力だけを使い、常に魔力と命力を魔力器官に満杯にした状態で、敵と戦えるコツがつかめそうじゃ」


「そうか、それはよかったな。

 だがこれからは、魔力器官の容量を増やす事と、新たな魔力器官を創り出す事を優先した方がいいぞ。

 これはこの人に安心してもらうための説明に戻るぞ」


 さて、不幸の連続で、不信と不安に心が染められてしまっている被害者たちに、心から安心してもらうためには、誠心誠意の説明と行動が必要だ。

 俺にそんな力があるかどうかは分からないが、やらない訳にはいかない。

 今生と前世の愛する家族に恥ずかしくない生き方をしなければいけない。


「いいかい、あの連中を再生していたのは教団ではなく俺なのだ。

 だからこそ、貴女を元通りに治す事ができたのだよ。

 あんな腐れ外道どもは、治すのではなく、武術練習のために再生していただけさ。

 だから見てご覧、もう四肢が千切れたまま元に戻らないだろう。

 もし君が復讐したいのなら再生するけれど、そうでなければこのまま死なせるよ」


「元通りにして、お願い!

 この手で復讐させて、お願いだから」


「いいよ、満足するまでいくらでも復讐すればいいよ。

 君だけではなく、他の人たちが満足するまで、1000回だって再生するよ」

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