第9話:勇士たち
聖歴1216年1月6日:エドゥアル視点
「やれ、やれ、高いワインになっちまった」
「ここで逃げだしたら、後ろから斬りかかられちまうかもしれない」
「いや、いや、その程度じゃすまねぇよ。
こいつらと一緒になって、新人を殺したり、町の人たちから恐喝したり、悪事の限りを尽くしていたと言われて、町の人々からリンチされるのは間違いない」
「生き残りたければ戦うしかねぇよ」
先ほどワインをおごった海千山千の冒険者たちが、俺が見逃した冒険者たちに現実を知らせる会話をしてくれた。
必要なら、見逃した冒険者たちを脅かしてモンスター退治に協力させるつもりだったが、よけいな事をしなくてすんで助かる。
俺に媚を売るという事は、連中も多少は悪事に加担していたのかもしれない。
「そうだな、俺がこの町を護った後に、ルイーズ教団はもちろん、魔術師協会や冒険者ギルドにも報復が行われるだろうな。
抵抗したければすればいい。
だがその時は、俺と戦う覚悟をするのだな。
何の罪もない町の人を攻撃するような冒険者は、こうなるぞ」
俺は痛みにうめいている聖職者の脚をまた砕いてやった。
俺が見逃した、それなりに戦える冒険者たちなら、さっきの戦いぶりを見ていれば、俺と戦っても絶対に勝てない事くらいは分かる。
だから俺が冒険者ギルドを出ると、嫌々ながら後をついてきた。
中堅どころの冒険者が100人もいれば、それなりの戦いはできる。
★★★★★★
「召喚聖者たちの教えを守らず、自らの欲望を満たすために嘘偽りを言い続けたルイーズ教団の邪悪な魔術ではなく、神が与えてくれる本当の支援魔術を教えてやる」
ボルドーの町を護る防壁を出て、ボルドー大魔境にまでやってきた。
感心な事に、最初の1人を除いて誰も逃げだそうとはしなかった。
まあ、最初に逃げだそうとした奴に威圧を放って失禁脱糞させたから、わずかでも恥を知っている者なら、逃げだしたくても逃げだせなかったという現実はある。
人間の死にたくないという本能はしかたがないから、恥をかくだけにしてやった。
「体力補助、攻撃補助、筋力補助、防御補助、魔術補助、速力補助、回復補助、精神補助、命力補助、魔力補助、回避補助、必中補助、体力強化、攻撃強化、筋力強化、防御強化、魔術強化、速力強化、回復強化、精神強化、命力強化、魔力強化、回避強化、必中強化、ダメージ軽減、ダメージ無効スキル、ダメージ反転」
「なんだこれは、信じられない」
「ウッオオオオオ、力がみなぎるぞ」
「こんなに沢山の強大な支援魔術をもらえるなら、どんなモンスターだって斃せる」
俺が膨大な支援魔術を唱えるので、ついてきた冒険者たちは驚いている。
普通なら1つ、多くても2つの支援魔術しか唱えられないから当然だ。
多少でも魔術師や聖職者と一緒に冒険をした事がある者なら、これだけで俺がどれほどの魔力を持っているか分かる。
「この程度の事で驚いていてどうする。
モンスターも弱くしておいてやるから、手を抜かずにしっかりと狩れ。
体力低下、攻撃低下、筋力低下、防御低下、魔術低下、速力低下、回復低下、精神低下、命力低下、魔力低下、回避低下、必中低下、体力弱体、攻撃弱体、筋力弱体、防御弱体、魔術弱体、速力弱体、回復弱体、精神弱体、命力弱体、魔力弱体、回避弱体、必中弱体、回避無効、攻撃反転、必外スキル」
「なんだこれは、嘘だろ、信じられない」
「ウッオオオオオ、嘘みたいに簡単にモンスターが斃せるぞ」
「こんなに簡単に強大なモンスターが斃せるなら、俺だって勇者に成れる」
「勇者のガブリエルや召喚聖者の生まれ変わりと言っているルーズは、実はエドゥアルのお陰で戦えていただけなのじゃないか」
手のひらを返したとまではいわないが、さっきまで恐怖の対象にしていた俺を、今度は勇者以上の存在に祭り上げようとしている。
「裏で流れていた、自分たちの邪悪な欲望を満たすために、300人の奴隷を生贄にしたと言う噂の方が、真実だったのではないか」
「そうそう、本当の勇者であるエドゥアルを殺そうとして失敗したという噂は、本当の事だったのだな」
俺が支援魔術をかけた100人の冒険者たちが、俺に有利な噂話を作っている。
ワインをおごった冒険者たちが、特に積極的に協力してくれている。
まあ、俺から信じられないくらい膨大な支援魔術を受けて、安全確実に過去最高の効率で経験値と獲物を手に入れているのだ。
もう1度支援魔術をかけてもらえるのなら、誰が始めたかも確認できない噂話を広めるくらい、安いモノだと考えているのだろう。
ギャオオオオオ
「セミドラゴンのリンドヴルムだ。
俺が斃すからお前たちは下がっていろ」
馬の頭とたてがみを持つが、胴体から下は翼のない蛇状態の強大なモンスター。
空を飛べない陸上種のセミドラゴンの事をリンドヴルムと言う。
純正種のドラゴンほど強大ではないが、召喚聖者以外は斃した事のない圧倒的に強大なモンスター、それがセミドラゴンと言う存在だ。
「体力補助、攻撃補助、筋力補助、防御補助、魔術補助、速力補助、回復補助、精神補助、命力補助、魔力補助、回避補助、必中補助、体力強化、攻撃強化、筋力強化、防御強化、魔術強化、速力強化、回復強化、精神強化、命力強化、魔力強化、回避強化、必中強化、ダメージ軽減、ダメージ無効スキル、ダメージ反転」
俺は自分と冒険者たちに支援魔術をかけ直した。
当然だが、美少女に化身しているゴッドドラゴンのラファエルにもだ。
「体力低下、攻撃低下、筋力低下、防御低下、魔術低下、速力低下、回復低下、精神低下、命力低下、魔力低下、回避低下、必中低下、体力弱体、攻撃弱体、筋力弱体、防御弱体、魔術弱体、速力弱体、回復弱体、精神弱体、命力弱体、魔力弱体、回避弱体、必中弱体、回避無効、攻撃反転、必外スキル」
当然の事だが、セミドラゴンのリンドヴルムには能力を下げる魔術をかけた。
もちろん、周囲にいるその他大勢のモンスターにもだ。
冒険者たちが斃せるモンスターは残しておかないといけない。
冒険者の収入源はモンスターを狩って素材を売る事なのだから。
命懸けの仕事には、それに見合った報酬が得られなければいけない。
「エドゥアル、妾の出番はまだなのか」
ゴッドドラゴンのラファエルが待ちきれないと言う表情と声色で尋ねるが、そう簡単に切り札を見せる訳にはいかない。
「本当に強い奴は、最後の最後に現れるのだよ。
俺が勝てないくらい強大な敵が現れた時に、颯爽と助けてほしい」
「エドゥアルが危機に陥る事など考えられない。
それに、エドゥアルが勝てないような相手に、妾が勝てるとも思えないのじゃ」
「そんな事はないよ。
俺が支援に回れば、エドゥアルはとても強くなる。
今は俺が指導した通りの鍛錬を続けてくれればいい」
「しかたないのじゃ」
などと話している間に、俺はリンドヴルムを簡単に斃した。
ドラゴンとは言っても、しょせんはセミドラゴンだ。
純正種のドラゴンとは比較にならないくらい弱い。
まして純正種のドラゴンの中でも最強のゴッドドラゴンとは、比較する事すらおこがましい差があるのだ。
「「「「「ウォオオオオオ」」」」」
「「「「「ドラゴンを斃したぞ」」」」」
「エドゥアル様こそ真の勇者だ」
「ガブリエルは偽物の勇者だったのだ」
「ルイーズ教団は自分たちの利益のために、教皇の娘を転生聖者だと偽るだけでなく、偽者の勇者を仕立て上げ、本当の勇者様を殺そうとしたのだ」
冒険者たちは、俺がリンドヴルムを斃した事に歓声をあげている。
俺の事を勇者だと勘違いしている。
ガブリエルが勇者に選ばれた事は間違いのない真実だ。
だが、下劣な悪事を重ねたガブリエルは、もう勇者ではない。
神が選んだ勇者がいなくなったこの世界は、これからどうなるのだろうか。
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