第5話:勇者ガブリエルたちは②

 聖歴1216年1月1日:ガブリエル視点


 ドッゴーン


「なにしてやがる、18階層に出る程度のホブオークに吹っ飛ばされやがって。

 それでも勇者パーティーの盾役か。

 チッ、しかたがねぇ。

 ルイーズ、クロエ、アーチュウのクズに支援魔術をかけてやれ」


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、何を申されるのですか、勇者ガブリエル。

 このわたくしが、木こりの息子風情に支援魔術をかけられるわけがないでしょ。

 その程度の事は、下賤な魔術師協会の娘がする事ですわ」


「キィイイイイ、私だって木こりも息子風情に支援魔術をかけるのは嫌よ。

 あのバカは、勇者様専属の盾役なのでしょう。

 勇者様が支援魔術をかければいいじゃない」


 ドッガーン。


「おで、よわくなった?

 おで、まえよりよわくなった?」


「チッ、だったら好きにしろや、ルイーズ、クロエ。

 その代わりお前達が襲われてもアーチュウに助けさせないし、俺も助けない。

 醜いホブオークに犯されればいい」


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、勇者様ともあろう御方が、何も分かっておられないのですわね、お情けない事です。

 ホブオークごときが、わたくしの護りを破る事など不可能ですわ」


「キィイイイイ、私だって同じよ、勇者様。

 私に近づこうとするモンスターは、何者であろうと闇魔法で奴隷にしてやるわよ。

 ホブオークごとき、恐れる必要などまったくないわよ」


 ドッゴーン、ギャシャ、ゴシャ、ガシャ、ドッガーン。


 おかしい、さっきからあまりにもおかし過ぎる。

 あれほど簡単に止めていたホブオークを相手に、バカ力のアーチュウが何度も吹き飛ばされている。

 アーチュウが渾身の力を込めて叩き込んでいるグレートクラブが、いとも簡単に防がれ弾き返されている。


 ホブオークなんて、アーチュウが軽く放つグレートクラブで即死させていた、弱小モンスターだぞ。

 勇者である俺さまがこの手で叩き斬ってやる。

 

「死にやがれ、このブタ野郎が」


 なっ、勇者である俺さまの剣をこん棒ごときで弾き返すだと。


「ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ」


「オークごときの攻撃にあた、ギャゥフ、ガ」


 ドッゴーン、ギャシャ、ゴシャ、ガシャ、ドッガーン。


「「勇者様」」


 うそ、だろ、おれが、勇者の俺さまが、ホブオークごときに後れをとるだと。

 今まだ軽々と避けていたはずのホブオークの一撃を、もろに受けてしまうだと。

 今までなら先に届いたはずの勇者剣がホブオークを切り裂く前に、ホブオークの棍棒が俺さまをとらえるなんて、信じられないぞ。


「キィイイイイ、汚らわしい豚人間の分際で、私に近づくな。

 ファイアストーム。

 キィイイイイ、骨も残さず燃え尽きなさい、豚人間」


「ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ」


「ヒィイイイイイ、いや、いや、いや、いやぁアアアア、近づかないで」


 うそだろ、なんでだ、どうしてクロエの魔術を受けてホブオークが生きている。

 今までなら、クロエのファイアストームを受けたら、ホブオークごときは骨も残さずに燃えてしまっていたのに、なぜ生きて近づいてくる。


「ルイーズ、回復だ、回復魔術をよこせ。

 俺だけじゃねえ、アーチュウにもだ、いそげ」


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、勇者様ともあろう御方が何を焦っておられるの。

 役立たずの足手まといを処分する絶好の機会ではありませんか。

 クロエやアーチュウのような、下賤な役立たずには死んでもらって、もっと役に立つ高貴な者を勇者パーティーに迎えましょうよ」


 バカが、今俺たちが状態異常になっていることが分からないのか。

 きっと俺さまを妬んだ連中が呪いをかけやがったのだ。

 あるいは前大神官派がルイーズを殺して復権しようとしているかだ。

 もしかしたら、クロエの父親の反対派が動いたのかもしれねえ。


「キャアアアアア、いたい、いたい、いたい、痛い。

 どうしてよ、どうしてわたくしの防御魔術が壊されそうになるのよ。

 今まで一度だってモンスターごときの攻撃で壊されそうになった事ないのに。

 どうして攻撃されるたびに防御魔魔術が崩壊しそうになるのよ」


 クソ、クソ、クソ、クソ、なんで俺様が回復ポーションを使わなきゃならねえ。

 勇者活動に必要な金や物資は、教団や魔術師協会が負担する約束だろうが。

 今日使った回復ポーションは、3倍にして請求してやるからな。


 ウッグ、ウッグ、ウッグ、ウッグ、ウッグ。


「アーチュウ、回復ポーションと補助ポーションを飲みやがれ。

 さっさと飲んで俺の盾になれや」


 ウッグ、ウッグ、ウッグ、ウッグ、ウッグ。


「死ねや、豚野郎」


「ギャアアアアア」


 性欲むき出しでルイーズの防御魔術を破壊しようとしていたホブオークは、背後が隙だらけで簡単に急所を刺し貫く事ができた。

 これでいい、これこそ正しい状態なんだ。

 勇者である俺さまがホブオークごときに負けるはずがないのだ。


「「「「「ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ」」」」」


 なんだと、なんで1度に5頭ものホブオークが現れる。

 今まではどんなモンスターも必ず1頭ずつ現れたのに。

 なんでこんな時に、初めて複数の、それも5頭も現れやがるんだ。


「なにをグズグズしてやがる、さっさと盾になれや、アーチュウ。

 クロエ、出し惜しみせずに全力で攻撃しろ。

 ルイーズもいつまでも休んでないで防御魔術を使いやがれ」


「キィイイイイ、言われなくたって分かっているわよ。

 若き天才美少女魔術師の攻撃を喰らいなさい、エリアファイアストーム!」


「「「「「ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ」」」」」


 うそ、だろ、なんでだ、なんでまったく通用しないんだ。

 本当に何かの呪いをかけられてしまったのか。

 ホブオークたちの皮膚が焼けているから、何の効果もないわけじゃない。

 何かが原因で魔術が弱くなってしまっているだけだ。


「クロエ、ちゃんと効いているぞ、攻撃を続けろ」


「むりよ、もうむり、魔力切れで頭痛がするのよ」


「この程度の攻撃魔術を放っただけで何を泣き言っていやがる。

 今まで、この倍も3倍も攻撃魔術を使っていただろうが」


「うるさいわね、今日は調子が悪いのよ。

 魔力が少ない日だってあるわよ。

 勇者だったらこんな時こそ私を護って戦いなさいよ」


「あ、こら、何1人逃げてやがる。

 魔術防御で俺たちを護るのが聖女ルイーズの役目だろうが」


「ホォオオオオ、ホッホッホッホ、わたくしこそ、この世界のただ1人の召喚聖者の生まれ変わりですのよ。

 勇者ごときを護るために死んでいい有象無象ではないの」


 くそ、ルイーズの裏切者め。

 自分にだけ快足の補助魔術をかけて先に逃げやがった。


「キィイイイイ、1人だけ逃げようとしたって、そうはさせないわよ」


「あ、こら、魔術切れだと嘘をつきやがったな、クロエ」


「嘘じゃないわよ、本当に魔力が切れていたわよ。

 だから魔力回復薬を飲んだのよ。

 勇者様なら勇者様らしく、か弱い女子供を護ってくださいな」


「アーチュウ、ホブオークを抑えていろ。

 俺さまが見えなくなるまで逃げるのじゃねえぞ、分かっているな」


「おで、ゆうしゃまもる。

 おで、ゆうしゃのたて」 

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